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Vol.23 音声・画像データの知識処理を行うコミュニケーションAI 人とAIのコラボレーションがもたらすビジネス革新

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#01 人とAIのコラボレーションが鍵を握る リアルでシリアスな世界のデジタル革命を加速する東芝のAI 東芝デジタルソリューションズ株式会社 コミュニケーションAI技師長 梅木 秀雄

産業や社会のあらゆる分野で進みつつあるデジタル化の波「デジタル革命(第4次産業革命)」は、今後、産業と社会の構造を大きく変えていくと考えられています。その特徴は、産業機器や社会インフラ、さらには人々の行動や業務活動といったリアルでフィジカル(物理的)な世界がインターネットによってサイバーな世界とつながり、状況の把握や予測による制御を可能にしていくという点にあります。実際、AI*が適用されるIoT*の領域は、工場の自動最適化や、自動車の自律運転、金融や医療など、人の生命や安心、安全に関わる「シリアスな世界」を中心に広がっています。

こうした世界は、現場のモノや知識の違いを受け入れ、ときには特色を出すための「すり合わせ」のデジタル化が重要になります。まさに、東芝グループが長年にわたり、社会インフラなどの分野でミッションクリティカルな課題に取り組み、多様なAI技術を開発してきた経験とポテンシャルが生かせるところだと考えています。

東芝デジタルソリューションズは、東芝IoTアーキテクチャー「SPINEX(スパインエックス)」のもと、IoTにAIを適用して、製造やエネルギー、社会インフラなどの産業分野におけるデジタルトランスフォーメーションを加速していきます。リアルでシリアスな世界のデジタル化によって、人とモノがより安全にかつ快適に連携し合うために、今後AIがどのような役割を担うべきか、人との関わりを大切にした当社のAI戦略についてご紹介します。

* AI:Artificial Intelligence (人工知能),IoT:Internet of Things (モノのインターネット)

デジタル革新
シリアスな世界での戦い

20世紀後半の第3次産業革命は、その末期に起きた爆発的な商用インターネットサービスの登場により、インターネット革命とも呼ばれます。そこでは、情報の検索や共有、広告、ネット販売など実世界のプロセスがサイバー空間上に次々と作られ、サイバー空間ならではの即時性、検索性、グローバル性などで特徴付けられた情報社会へと、経済を形成しました。

かつてのインターネット革命と、現在進行中のデジタル革命は、どのような違いがあるのでしょうか。インターネットサービスの巨人と呼ばれる一部のグローバル企業が、今回もやはり主役なのでしょうか。この点について、スタンダードとカスタム、カジュアルとシリアスという2つの対立軸でデジタル革命の特徴を考えることで、日本企業としての強みや活路が見いだせるのではないかと考えられています[1](図1)。

図1 AI、IoTのデジタル化が有効な領域

これまでインターネットサービスを核とする製品は、スタンダードでカジュアルな領域で発展してきました。万人にとって「あれば便利」なサービスを、どこよりも早く、できるだけ多くの国で受け入れられるものにして提供することが、優先されてきました。一部のサービスは、言語や国民性の違いから、その国や地域でローカルフィットさせる企業が出てきて、独自に発展することもありますが、市場全体としては、一握りの先進的なグローバル企業が開発をリードし、市場を席巻してきました。このため、「カジュアル」な用途における自動化や制御の要求性能は、仮に失敗したとしても、便利さが落ちる程度で重大な影響はないため、一般に万人に受け入れられる平均点をクリアできればよいというレベルに留まります。

一方、デジタル革命で特徴的なのは、カスタムかつシリアスな領域における変化です。工場の最適化や自動車の自律運転、金融や医療分野など、人の生命や安心、安全に直結する領域がまさにここに当たります。そこは従来、先進国の各業界が長年培ってきたノウハウとすり合わせの世界で、細かい職人的な熟練者が担ってきたところでもあります。例えば、ものづくりの現場では、前後の工程をどのように結び付けるか、各部品をいかにつなぐか、いかに精度良く組み合わせるかなどです。そこでは、経験することで培われてきた知識や技能、それをもとにした勘といった、形式知化されていない「暗黙知」による多様なすり合わせが、現場を熟知した職人などによりきめ細かく行われてきました。ところが、少子高齢化など社会構造の変化で熟練者は減少し、製造工程はますます複雑化・緻密化する一方で、さらに高い生産性が求められる現場の事情が、こうした分野にデジタル革命の波が広がる主な理由です。ものづくり以外の産業領域、金融や医療などでも同じような状況があると言えます。

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シリアスな世界にAIを適用
熟練者の不足を補う

梅木 秀雄

こうしたシリアスな世界にAIを応用するにあたり、一般向けのインターネットサービスのように、グローバルな先進企業が、ある日一気に全世界で共通したサービスを立ち上げて優位になる、ということは難しいと考えています。世界で共通して活用することができる「地図」のような情報系のサービスの類であれば別ですが、リアルなモノや人を相手にするシリアスなサービスは、カスタムな領域での徹底的なすり合わせによる性能や精度の確保が、必然的に求められます。現場の事情や、そこで関わる人の知識や感性などと向き合い、着実に現場の実績を積んだものだけが信頼を得て広がる、そういうものであると考えます。

AI技術は、まさに日進月歩で進化しています。最近の話題で言えば、グローバルでトップクラスのIT企業が作った最先端の囲碁のAIは、もはや実際の棋譜データを必要とせず、与えられた囲碁のルールの中でAIが自分自身と対戦してデータを自己生成することで、戦略を学習することができるようになりました。確かにすごいことですが、囲碁の棋譜のパターンは膨大でも、与えられたルールと勝敗の判定はシンプルなものであるため、これはあくまでもカジュアルな世界におけるAIの応用例にすぎません。現実のリアルでシリアスな世界においては、そもそものルールや判定基準自体が多様なうえ、それらが途中で変わることもあります。もちろん、そうした意思決定をしているのは人であり、それは自動化によって重大な事態を引き起こす可能性に対する責任の所在とも関係しています。そのため、関わる人は、自動化されたシステムがどのようなルールや判断基準で動いているのかを理解し、意識していなければなりませんが、そううまくはいきません。そこをサポートするのに、AIが役立つと考えています。

熟練者の減少や致命的な人手不足を補い、これまで受け継がれてきた暗黙知の消滅を回避するために、人の知識から判断基準を導き出し、システムの状態や状況を人にわかりやすく伝えて意思決定を支援する。これらがリアルでシリアスな世界のデジタル化には不可欠となります。

「人の意図や状況を理解し、人にわかりやすく伝える」東芝のコミュニケーションAI「RECAIUS(リカイアス)」と、それによる人とAIのコラボレーションの実現に向けた取り組みが、その鍵を握っていることは言うまでもありません。

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東芝の2つのAIが連携し
RECAIUSは人とモノをつなぐ

SPINEXにおけるデジタル化を支えるため、当社はこれまで2つのAI領域で技術を培ってきました。ひとつは、生産機器やシステムにおける膨大なデータを分類、予測し、最適な機器の制御につなげる「システムに関わるデジタル化」を担うアナリティクスAIの領域。もうひとつは、人とのコミュニケーションの支援や、人の意図や置かれた状況の理解、そして得られた知識の活用を促進する「人に関わるデジタル化」を担うコミュニケーションAIの領域です(図2)。

図2 AI、IoTによる次世代デジタル革命への対応

アナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」の領域では、工場の生産ラインにおいて、機器からの信号や画像のデータを先進の画像解析技術やディープラーニング技術を活用して、製品が不良となる要因の発見や、機器のトラブルやその予兆の検出、機器の制御の自動化や最適化などにつなげています。実際に、フラッシュメモリを製造している東芝グループの四日市工場をはじめ、さまざまな産業領域で実証を重ね、歩留まり改善や設備の安定稼働で実績を上げてきました。

コミュニケーションAIの領域では、RECAIUSとして、これまで音声認識・合成、意図理解、対話応答、知識探索、人物認識などのヒューマンインターフェース系コンポーネント製品やクラウドサービスなどを提供しており、現在は、コンタクトセンターやフィールドの業務を支援するソリューションへの展開を進めています。

RECAIUSは、音声や画像、自然言語などをもとに幅広く状況を把握し、それをシステムの制御に反映するとともに、システムやモノの状況を理解しやすい形で人に適切に伝えるという、人とモノをつなぐ役割を担っています。

私たちはこれからもAIを活用し、オープンイノベーションとプラットフォーム化の推進によって、より多くのさまざまなソリューションの実現を目指すとともに、プラットフォーマーやシステムインテグレーターとの共創による新たなビジネスモデルの確立も推進していきます。そして、その取り組みの先には、リアルでシリアスな世界が抱える真の社会課題の解決にもつながっていると信じています。

参考図書:
[1] 「AI経営で会社は甦る」冨山和彦著 文藝春秋2017年

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2017年10月現在のものです。

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