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Vol.24 IoTデータをビジネス価値に変える東芝アナリティクスAI「SATLYS」 AIデータ分析がもたらすデジタルトランスフォーメーション

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#04 保守部品の在庫適正化と保守サービス向上を同時に実現 AIを活用したPCサーバー部品の故障数予測システム 東芝デジタルソリューションズ株式会社 ICTインフラサービスセンター インフラサービス開発部 参事 田中 和幸

機器の安定した稼働と顧客満足を追求するため、多くのものづくり企業では、製品の販売期間を終了した後も長期間にわたり部品を保有しています。そこでは在庫が枯渇するリスクを回避するため、保守部品の調達や保管に大きなコストがかかっています。東芝デジタルソリューションズでは、自社製のPCサーバー「MAGNIA(マグニア)シリーズ」における保守サービスにおいて、在庫の適正化によるサービスの品質向上を目指し、精度の高い故障予測に挑戦。当社独自の分析メソッドを最大限に駆使してAI*を導入し、過去十数年にわたって蓄積してきたMAGNIAの製造や保守に関する履歴データを活用することで、部品ごとの故障予測システムを完成させました。当社の分析モデル化やデータマイニングの技術が存分に発揮された、革新的な予測システムの概要と成果をご紹介します。

* AI:Artificial Intelligence(人工知能)

安定稼働のための
長年の課題

MAGNIAシリーズは高い信頼性と拡張性で、産業や社会のさまざまなシーンを支え続けているPCサーバーです。コンパクトな筐体で店舗や小規模なオフィスなどに最適な1Wayサーバーや、基幹システムに求められるハイパフォーマンスを誇る2Wayサーバーなど、豊富なラインアップをご用意。CPUやメモリ、ハードディスクなどのオプションを自由に選択して組み込めるフルBTO*生産方式により、お客さまの用途や規模、設置する環境に合わせた最適なサーバー構成で提供できるのが特長です。

*BTO:Build To Order(受注生産方式)

MAGNIAのみならず、サーバーなどの機器は稼働期間が長くなると、ハードウェアの故障が発生しやすくなります。サーバーを製造、販売するメーカーでは出荷後の修理依頼に即応し、製品を長期間にわたって最適なコンディションで利用できるように、メンテナンスの体制を整えています。

また、適切な保守を素早く提供するためには、体制の整備だけでなく、保守に必要となる部品が、必要なときに揃っていることが前提となります。技術革新により構成部品の短命化が進む中で、メーカー各社は保守期間が終了するまで保守部品や消耗品の在庫を枯渇させないように、十分に調達・確保してメンテナンス需要への対応を図っています。

ところが、保守部品の在庫の枯渇を避けるためには余裕を持った在庫を常に保有しておかなければならないため、在庫の保管や調達にかかるコストが膨らんでしまうというデメリットがあります。当社においても、お客さまに安心してMAGNIAをご利用いただきながら保守部品の在庫をいかに適正にしていくかは、長年にわたる大きな課題でした。

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蓄積されたデータの状態が
大きなネック

課題の解決を図るため、当社はAI技術を活用し、部品ごとに故障が発生する時期とその数を高い精度で予測することに挑戦。MAGNIAを構成する1,000種類を超える保守部品・消耗品・有寿命部品の需要を先読みし、枯渇の防止と在庫の削減を両立する、そんな革新的な予測システムの構築を目指しました。

予測システムの実現にあたりポイントとなったのは、分析アプローチの選定です。一般的にPCB*部品やメカ部品では故障の特性は異なります。また同じ部品でも装置の設置環境などで寿命にばらつきが生じるため、一般の時系列的なアプローチでは精度の高い予測結果を得ることができません。

*PCB:Print Circuit Board(プリント基板:電子部品を固定して配線するための部品)

田中 和幸

そこで採用したのが、過去に蓄積された各部品の稼働開始日と故障発生日をひも付けてモデル化し、故障が発生する時期を予測するというアプローチです。その際、医療や製造の分野などで広く用いられている「生存時間解析」と呼ばれる余寿命をモデル化するための統計的な手法を活用して、より正確な予測結果を導き出すことを目指しました。

生存時間解析では、イベントが起きるまでの時間とイベントとの間の関係に着目。製品などの余寿命を、時間(X軸)に対する累積生存率(Y軸)をプロットすることで、階段状のグラフ(生存曲線)が得られます。外れ値などの影響を受けることが少なく、与えられた条件下での部品の故障数を確率的に予測できるのが特徴です。

問題は、生存時間解析ツールに入力するデータを準備することでした。どんなに優れたAIシステムでも精度の高い推論結果を得るためには、過去のデータを正しく処理し、正確なものをできるだけ多く用意しなければなりません。

しかし、MAGNIAを構成する部品の中には、稼働開始日が残されていないものが多数あることが分かりました。このため製品を作るときの前工程である組み立ての時のデータや最終工程のデータが混在している製造履歴データを手掛かりに、部品の「稼働開始日」を抽出する必要がありました。

一方、保守サービス部門が管理している保守部品の交換履歴データを見ると、フィールドで保守員により記録されたデータの多くは手書きであり、入力ミスや欠落のあるデータがかなりの数に上っていました。さらに部品を交換する際には、故障が明確な部品と、故障の可能性に基づく見込み交換の部品とがあります。後者の場合は、現場から持ち帰った後の検証データも使うことで故障なのかを見極め、正常な部品を除外して故障による交換部品のみを抽出する必要がありました。

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卓越した分析メソッドにより、
入力データを生成

当社は幅広い事業活動を通して現場から入手したさまざまなデータを分析し、活用する技術開発を進めてきました。また多種多様なデータが混在した場合でも精度の高い分析を可能にするデータマイニング技術にも早くから取り組んでいます。

こうして長い間積み重ねてきた経験とノウハウを、今回の課題に対しても結集。先進のデータベース技術とデータサイエンスを取り入れて、確かで十分な量の入力データの生成に挑みました。形式にばらつきがあり、分散し保存されているデータから、稼働開始データと故障データを抽出するのに、検証を含めて1年間を要しました。入力ミスや欠落を補完するなどデータクレンジングを施した上で全てのデータを統合し、必要十分な入力データの生成を行い、故障発生の時期を部品ごとに高い精度で予測する分析プラットフォームを構築しました。

実証実験の結果は上々でした。保守に必要となる全ての部品を対象に、予測システムによる故障の予測数(必要な累積調達数の予測)と実際に過去に行った累積調達数を比較し、システムの有効性を検証。PCB部品においては、累積故障数に対する実際の在庫の超過数は最終的に18台でしたが、予測システムを使うと4台の超過数に抑えられることがわかりました。さらに、メカ部品に関しては超過数がわずか1台という結果が得られたのに加え、従来と比較してMAGNIAの保守・メンテナンスコストを30%程度は削減できるという試算も得られました(図1)。AIを活用した故障予測システムが保守部品の在庫の適正化へ向けて大きな力になることが証明されたのです。

図1 予測システムによる故障予測の有効性検証

精度の高い故障予測で適正な在庫管理が実現すると、その効果は需要を先読みした生産計画の立案や保守員の配置最適化などにも波及し、業務プロセスのイノベーションや事業モデルの抜本的な変革に大きく加速する可能性も秘めています(図2)。

図2 周辺課題への応用

当社は今回の成果を踏まえ、MAGNIAで故障予測システムの本格的な導入を進めるともに、社会インフラやエネルギーなどの東芝グループの産業機器にも応用。さらにこれらの取り組みから得たAIの知見とノウハウを、お客さまの課題解決や事業変革へと生かしていくつもりです。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2018年2月現在のものです。

関連情報 生存時間分析技術:保守部品在庫最適化 (Software & AI Technology)

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