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Vol.28 情報資産の価値を高める デジタル変革を支えるソフトウェア生産技術

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#01 社会変化に即応する 先進デジタル技術を投入したIT共通基盤 東芝デジタルソリューションズ株式会社 加藤 秀樹

システムの刷新を進めなければ、人材もコストも既存のシステムに奪われ、2025年以降、日本は年間で最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある。経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」には、「2025年の崖」と名付けられたこんな衝撃的な予測が掲載されていました。レポートでは、日本企業においてデジタルトランスフォーメーション(DX*)が進まない最大の要因は、老朽化した既存のシステムにあると指摘。事実、既存のシステムの複雑でブラックボックス化した内部構造が全社横断的なデータ活用を阻み、またその維持や管理に人材とコストが割かれている企業も多く、労働人口の減少などを背景に社会課題として捉えられはじめています。東芝デジタルソリューションズでは、長年のシステム構築の効率化、標準化・共通化を支える手法やコンポーネントを体系化した共通基盤「CommonStyle(コモンスタイル)」に、先進のデジタル技術を既存のシステムに最適に適用していく「ITモダナイゼーション」に関する技術を取り入れて、推進しています。ここではITモダナイゼーションが着目される背景とそのあるべき姿を概観し、CommonStyleの強化を図る最新の取り組みについてご紹介します。

*DX:Digital transformation

既存システムのデジタル化を阻む障壁

デジタル技術を駆使して、経営や業務の現場に必要なサービスをタイムリーに提供する。これにより社会やビジネスの変化に、柔軟に、迅速に対応できる革新的なプロセス変革と新たなビジネスを実現して企業価値を高めようというのが、DXの目指すところです。それは従来のプロセスの多くがソフトウェアに置き換わることを意味し、DXの取り組みが進めば進むほど、開発テーマは増大化。進行中の業務効率化を滞らせること無く既存のシステムにIoT*やAI*といった先進のデジタル技術を適用し、試行錯誤を繰り返していくことになります。

*IoT:Internet of Things(モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能)

社会のさまざまな産業領域において、デジタル技術で新たなビジネスモデルを展開する新規参入者による破壊的イノベーション(デジタルディスラプション)が進む中で、情報システムの評価が「安定した運用」から「サービスをいち早く提供し、企業の価値創出に貢献したかどうか」に変わってしまうと、どのような変化が起きるのでしょうか。受託開発におけるコストの削減とリソースの最適な確保を目指す従来型のシステム構築(SI)が価値を見直されていく一方で、「自分たちが本当に求めているものは自分たちでないと実現できない」という現場起点の発想が広がっていくのは想像に難くありません。システムの構築や運用の生産性を大幅に高めるOSS*やパブリッククラウドの普及は、こうした気運を一層後押しすることでしょう。実際に、プラットフォーマーと手を組み、もしくは彼らが提供する技術とサービスを使って、ベンダーに頼らず内製によるシステム変革に取り組む企業も現れはじめています。

*OSS:Open Source Software

しかし、そこには克服すべき課題があります。将来的にDXの基盤となる既存のシステムの存在が、DX変革の足かせとなるリスクです。

QCD*が最優先されてきた既存のシステムは、長い年月にわたって改造を重ね、さまざまな機能が追加されながら利用されてきました。その結果、複雑化したシステムの全貌が見えない、ブラックボックス化したシステムが増えたのです。システムに蓄積された膨大な顧客情報や業務データは、ビジネスを変革する上で貴重な資産です。それらのデータをお客さまご自身がセキュアに管理し、有効活用できることが、価値あるDXの実現につながります。新たな試みに投資できる予算には限りがあることに加え、このブラックボックス化したシステムを安定して運用しながら、同時に刷新を進めていけるのかも、大きな課題です。

*QCD:Quality(品質),Cost(コスト),Delivery(納期)

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ITモダナイゼーションと、その条件とは?

こうした課題に対して昨今、注目を集めているのが「ITモダナイゼーション」です。複雑化し、ブラックボックス化した既存のシステムを、その特性や資産を生かしながら先進のデジタル技術やビジネスの変化に対応できるように再構築。攻めのITと守りのITを両立させ、イノベーションを図っていきます。

ここで重要なのは、ITモダナイゼーションには幅広い産業領域におけるSIの実績と経験はもとより、先進のデジタル技術への対応など、理想のシステム像をカタチにする全方位的な技術力と知見が必要とされるということです。

東芝デジタルソリューションズは、東芝グループの事業でもあるエネルギーや社会インフラ、工場におけるものづくり、官公庁や地方自治体、さらには自社内で活用する基幹システムなどの開発や運用において、大規模かつ安心・安全を支える技術と知見を積み重ねてきました。またIoTやAIといった先進のデジタル技術にも力を入れ、SPINEX(スパインエックス)(株式会社東芝)やRECAIUS(リカイアス)SATLYS(サトリス)などを取りそろえ、さらに実績を積み重ねています。そしてDXの実現のリスクを解消してDXを加速するため、ITモダナイゼーションにおける次の3つの要件を設定し、当社のノウハウを十分に生かしました。

  • データの活用、連携が容易であること
  • 柔軟に、スピーディーに、システムの変更ができること
  • 常に健全な状態で、システムが運用できること

これらを徹底し、またシステムの改善に終わりはないという発想の下、段階的かつ継続的にシステムを高度化させるさまざまな取り組みを行っています。この要となっているのが、実際にさまざまな産業領域のサービスやシステムを開発する事業部門と製品開発部門を強力に支え、そこで得た経験や知見をノウハウとして蓄積してさらなる活用に結び付けている私たち生産技術センターのメンバーと、私たちが提供する共通基盤技術です。

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社会変化にダイナミックに応える共通基盤

生産技術センターは、品質の高いサービスやシステムを、いかに効率的に最適なコストで実現できるのかを研究開発し、当社グループの技術者を支えている部門です。東芝の研究開発センターやソフトウェア技術センターによる基礎研究の成果を実践的な生産技術にしたり、案件ごとに異なる最適なシステムの作り方やツールの効果的な使い方、経験から得たノウハウなどをガイド化したり、さらには新しい技術やOSSの組み合わせ方などを自らの研究開発や試行を重ねて知見を盛り込んだりしながら、システム開発標準として整備しています。

このシステム開発標準は、当社グループがさまざまな産業領域に向けてサービスやシステムを開発する上で、なくてはならないものです。3つの領域に分けて体系化し、それぞれの領域を連携することで相乗効果を発揮させます(図1)。

図1 共通基盤技術を活用したものづくり

まずは、サービスやシステムの企画から、開発して運用・保守を行うまでの一連の作業(プロセス)を網羅的に定義したプロセス標準「PROSQUARED(プロスカード)」です。国内外の規格や業界標準に、当社がこれまでの開発で経験してきたUXデザイン*やアジャイル、ウォーターフォールといったさまざまな手法や、従来型のSIによる作り込み、クラウドの活用、IoTなどの案件から得たノウハウを加え、開発手法やプロセス標準として整備。技術者は、開発案件の特性に応じて選択して活用します。

*UXデザイン:User Experience(顧客の経験価値)を高めるための人間中心設計手法を取り入れたデザイン方法

東芝デジタルソリューションズ株式会社 加藤 秀樹

また、クラウドネイティブやモバイルファーストなアプリケーション、マイクロサービスの活用といった先進のアーキテクチャー技術や、既存のサービスやシステムを部分的あるいは段階的に移行するようなITモダナイゼーションの実践的な技術の開発にも力を入れています。特に、新しい取り組みについては、開発の現場に入って事業部門と一緒に試行錯誤しながら経験を積み重ね、実践的な共通基盤化を進めています。

そして当社の共通基盤技術の中で欠かせないのが、2006年からスタートしたプロダクト標準「CommonStyle(コモンスタイル)」です。システム開発のノウハウを標準化し、アプリケーション実行基盤や開発環境を体系的に整備。アプリケーション実行基盤では、API*サービスやアプリケーションフレームワーク、そしてアプリケーションプラットフォーム技術を提供するとともに、それらをどのように組み合わせて使用すべきかを明示することで、資産の容易な再利用と高い品質の作り込みを支援しています。また開発環境では、先進のアプリケーション開発に対応するALM*ツールチェーンと開発ツールを提供し、技術者が先進の技術をスムーズに導入して作業効率や作業品質の向上を実現できるように支援しています。

*API:Application Programming Interface,ALM:Application Lifecycle Management

生産技術センターではこのCommonStyle に、IoT技術やアジャイル開発技術、OSSの活用技術を早くから取り込み、共通基盤技術の強化に努めてきました。さらに現在ではITモダナイゼーションを実践させるための技術である、パブリッククラウドおよびPaaS*やSaaS*の活用はもとより、マイクロサービスという機能単位で開発した小さなサービスを複数組み合わせてひとつのサービスやシステムとして提供するマイクロサービスアーキテクチャー*も共通基盤化しています。

*PaaS:Platform as a Service,SaaS:Software as a Service
*マイクロサービスアーキテクチャーについては、#02で詳しくご紹介しています。

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ITモダナイゼーションに向けた、CommonStyleの最新技術

めまぐるしく変化するビジネス環境に最適なITモダナイゼーションを、より柔軟に俊敏に実現する共通基盤に向けて、当社はお客さまが求められているシステムへの期待に着目。お客さまにとって最適なシステムを実現するために、「SoR(Systems of Record)」「SoD(Systems of Differentiation)」「SoE(System of Engagement)」という3つの特性に対してCommonStyleを強化しています。

SoRでは、既存のシステムを改造し、機能性の向上や品質の安定化を効率的に実現していきます。従来のCommonStyleの適用により対応できますが、仕様設計の品質チェックを自動化させるなど、システムを開発する技術者に対してエンジニアリング業務の支援を強化し、より効率的に品質の安定化を図ることを目指しています。一方、SoDでは既存のシステムを生かしつつ、先進のデジタル技術を活用して付加価値を高めていきます。お客さまが顧客ニーズやビジネス環境に合わせて差異化・優位性を保ち続けることができるように、OSSに加え、パブリッククラウドやマイクロサービスアーキテクチャーなど先進のデジタル技術を融合させてシステムを進化させるための環境や各種設計ガイドなどもCommonStyleに実装。お客さまやソリューションを開発する事業部門と必要なシステムの姿を共有しつつ、安定した品質で新しい技術を既存のシステムに柔軟に追加していく生産技術を確立しています。

そしてSoEでは、IoTやAIなど先進のデジタル技術を活用して競争力のあるサービスを創出し、お客さまにとって価値あるDXの実現を目指します。サービスをリリースしてからでも不具合を修正し、システムを再調整し、状況を見ながらアップデートできるユーザーライクな開発環境を実現するのが理想です。生産技術センターでは、CommonStyleにオンプレミスやクラウドなどプラットフォームを選ばない新たな実行基盤を準備。その基盤を利用してマイクロサービスを素早く構築し、APIを介して既存のシステムが持つデータと連携できるように、開発環境やガイドを整備しました(図2)。

図2 ITモダナイゼーションに向けた共通基盤技術の強化

これらの強化により、CommonStyleは、必要なデータを容易に参照できるAPIの整備や、ビジネスや社会の変化に強いアーキテクチャーと先進のデジタル技術への対応を実現し、さらには新しいシステムの適切な監視や回復性設計の実装によるシステムを維持する作業の自動化、運用担当者がシステムの開発担当者に協力して継続的なシステムの改善を行うDevOpsの導入などによる健全なシステム運用も実現。DXを加速するITモダナイゼーションにおける3つの要件に当社のノウハウを十分に生かした共通基盤へと成長しました。

当社はこれらの技術力を最大限に活用して、さまざまなお客さまの現場に置かれた既存のシステムと、そこで得られるさまざまなデータを自由に活用できる、変化に強いシステムへと刷新していきます。

ITモダナイゼーションの壁を乗り越え、2025年の崖を乗り越え、価値あるDXを実現していくためにお客さまと共に歩むべきパートナーとして、東芝デジタルソリューションズはこれからも進化し続けます。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年1月現在のものです。

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