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Vol.29 システム製造業から価値創造業へ 価値共創を目指すソリューションセンター

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#01 イノベーションをもたらすビジネスプロデューサーを DX時代に向けた技術者育成 東芝デジタルソリューションズ株式会社 竹本 潔

ICTシステムには、基幹システムに代表されるような安定性や信頼性を重視して業務のコスト削減や効率化を追求していくSoR*と、柔軟性や拡張性、変化への迅速な対応を重視し、新たな価値を創造してビジネスの変革を目指していくSoE*があり、この2つの特徴を理解して上手に使い分けていくのが「バイモーダルIT」の考え方です。
お客さまのデジタルトランスフォーメーション(DX*)やITモダナイゼーション*を支えている東芝デジタルソリューションズでは、いち早くバイモーダルITへの対応を強化。ソリューションセンターにおいて、SoRのシステム開発で豊富な経験を積み重ねてきた技術者たちがSoEに関する能力を身に付け、バイモーダルITを実現する「デジタル人材」へと成長する取り組みを推進しています。
なぜ人材強化なのか。目指しているのはどのような人材像なのか。同センターで導入中の新たな研修の概要とともにご紹介します。

SoR:System of Record,SoE:System of Engagement,*DX:Digital transformation
*ITモダナイゼーションへの取り組みは、Vol.28で特集しています。

SIの世界にも、イノベーターが求められている

今や私たちの仕事や生活に欠かせないパーソナルコンピューターは、一体誰が生み出したのでしょう。その概念を初めて具体的な形で示したのは、アラン・ケイという計算機科学者でした。今から50年近くも前に彼が提唱した「ダイナブック構想」は、小さくて薄い、操作が簡単、誰もが所有できるといったパーソナルコンピューターの理想形であり、これに触発された多くの人たちによって開発がはじまりました。

システムインテグレーション(SI)の世界も、アラン・ケイのようなイノベーターが待望される時代に突入しています。言ってみれば、テクノロジーの未来を予測し、成長の原動力となるイノベーションを構想し、実現可能な企画を描き、具体的に開発を進めていくスピリットとスキルを持った人材です。背景にはビジネスとICTを取り巻く環境の劇的な変化があります。

第3のプラットフォームと呼ばれるモバイルやビッグデータ、ソーシャル、クラウドを活用して新たな価値を創造し、企業活動を変革していくDXの時代において、「攻めのITと守りのIT」や「SoRとSoE」といった言葉ですみ分けされた2つのICTシステムを、それぞれの特徴に応じて共存させ連携させる「バイモーダルIT」の実現が求められ始めています(図1)。

図1 デジタルトランスフォーメーション時代のICTシステム

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これからの技術者育成に向けた鍵

従来のSI技術者は、基幹システムに代表されるSoRと呼ばれる定型的な業務を効率化するシステムを中心に、開発や運用を行ってきました。東芝デジタルソリューションズのソフトウェア開発拠点であるソリューションセンターでも、お客さまの要求を正確に把握して具現化し、品質の高さと安定した稼働を重視したシステムの開発を長年にわたり行ってきました。

これに対して最近は、SoEと呼ばれる新たな価値を創造してビジネスを変革する、柔軟性と俊敏性を重視したシステムに期待が高まってきています。特にインターネットビジネスの領域では、IoT*やAI*といった先進のデジタル技術を用いたビジネスが次から次へと登場し、OSS*やクラウドの普及により新興企業が短い期間で新しいサービスを立ち上げることも珍しくありません。SNS*で人と人とをつなぎ、ネット通販で商品と顧客の嗜好(しこう)をつなぐなど、SoEはビジネスや生活のシーンに全く新しい信頼関係や絆を広げています。

*IoT:Internet of Things(モノのインターネット),AI:Artificial Intelligence(人工知能),OSS:Open Source Software,SNS:Social Networking Service

当社のソリューションセンターでは、従来の「受託型SIビジネス」でのSoR領域における開発に加え、SoE領域におけるシステム開発の強化を推進。業務の効率化や生産性の向上といった価値を提供するだけではなく、最新のICTを駆使してお客さまと新たな価値を生み出し、共にビジネスを創り出すことに主眼をおいた「共創型SIビジネス」への取り組みを進めています。

ここで力を注いでいるのはテクノロジーの分野ばかりではありません。ソリューションセンターがこれからのDX時代に向けた最大の鍵と捉えているのが、SoRの知識と経験を持つ技術者が、イノベーションに対する高い志と専門性という新たなSoEの能力を併せ持つことでバイモーダルITを実現する、新しい「デジタル人材」の育成です。

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イノベーターの資質を備えた、東芝の技術者たち

なぜ人材育成を重視するのか。理由は2つあります。1つ目はSoRとSoEではシステムの性格はもちろん、開発に至るアプローチも大きく異なるという点です。信頼性と安定性を重視し、しっかりと計画を立てて確実に実行していくウォーターフォール型の開発手法が向いているSoRに対して、SoEは新たな価値の創出による企業の競争力強化が主な目的であり、変化への即応性と機動性に優れたアジャイル型の開発手法が効果的です。SoEのシステム開発を行う技術者に求められるのは「何が有効で有益なのか」を探索し続け、機動力と柔軟性を持ってカタチにしていく能力です。これまで優れた統率力と実行力でチームを率い、正確なオペレーティングでミッションを遂行してきた技術者が、自助努力でこの領域のスキルを身に付けることは容易ではありません。

2つ目は、ソリューションセンターの技術者たちが、次代のイノベーターにふさわしいポテンシャルを兼ね備えているという信念です。ビジネスのデジタル化によるDXの実現には、お客さまの真の課題に真摯に取り組み、目的の実現に向けて具体的な活動を起こす必要があります。ソリューションセンターの技術者は、これまでものづくりや社会インフラのシステム開発とその運用や保守を通じて、豊かな業務知識やノウハウをリアルな現場で培い続けてきました。開発の上流工程から現地での最終調整、その後の対応までを一手に担い、お客さまの姿を最も近いところで見てきました。これらの経験を元に、お客さまの視点で課題と真摯に向き合うことで、お客さまにとって真に有効となる新しい価値を提案し、これをソリューションとして新たに実現することが可能なはずです。そのために十分な知識や経験を既に持っている当社の技術者たちを、組織をあげてイノベーターに磨きあげようとするものです。

この1年、従来のソフトウェア開発技術やプロジェクト管理技術に加え、パブリッククラウドの技術者やAIの活用を支援するデータサイエンティスト、アジャイル開発を行う技術者などの育成、海外との交流や語学の習得など、さまざまな研修を急速に立ち上げてきました。ただしそこで磨かれるのはスキルであり、これまでの知識や経験の上に積み重ねられる能力です。ソリューションセンターでは、イノベーターとしてさらに必要となる新たな能力も磨くために、DX時代に合わせてより最適化された新しい研修を模索していました。

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DX時代にふさわしい人材研修の開発に向けて

そこで2017年度からスタートさせたのが、共創型のSI技術者を育成するための新たな研修です。カリキュラムを策定するにあたり「DXの時代にふさわしい人材とは何か」を探るべく、さまざまな業界の「破壊的イノベーション」に着目しました。例えば携帯電話やスマートフォンは、カメラが付いて画質が向上し、メールやインターネット接続などの機能や性能が年数回の短いサイクルで向上することで新たな市場を築きました。これによって年1回程度の製品の改良を続けていたデジタルカメラという現存の市場に大きな影響を与えました。このようなケースは成熟市場の限界を示唆しています。技術と品質を追いかけるだけでは、市場ニーズを先取りする破壊的イノベーションに立ち後れることを再確認させてくれました。

また高い収益力を誇る世界中の「ビジネスモデル」にも注目しました。今ではレコードやCDを買ったことがない若者も多いと聞きます。音楽はもはや製品(モノ)ではなく、モバイル端末にダウンロードして楽しむサービス(コト)にすっかり変わりました。このように現代において収益力の高いビジネスモデルの多くは、モノの利用を通じて顧客が得る価値(使用価値)に基づいて構築されています。システムインテグレーターとその技術者にも、既存の事業形態やシステムの枠組みに捉われることなく、顧客の価値を自ら創造していく気概とスキルが求められていく。そんな思いが改めて強くなりました。

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共創型のSI技術者育成研修の概要とこれまでの評価

竹本 潔

世界中のイノベーションとビジネスモデルの分析を経て、この新たな研修では「イノベーションをリードするビジネスプロデューサーの育成」を目標に掲げました。いわばデジタル技術のスキルとビジネススキルの両面を併せ持った上で、強い起業家マインドを持って既成概念を打破する着想を描き、固い意志を持って目的を達成しようとするリーダーの育成です。

この新しい人材を育成するためには、知識の伝達を中心とした伝統的な学びだけでは困難です。そこで採用したのが「アクティブラーニング」という能動的な学習手法です。ワークショップやチーム内でのディスカッションを通じて、受講者が主体的に問題を発見し、周囲と共同して解決します。体験と体感を通じて気づきと発想を生み出し、全員で大きな学びを培うものです。

講師は、企業の経営顧問や新規事業開発のアドバイザー、エグゼクティブコーチとして精力的に活躍されている社外の専門家にお願いしました。受講者は、6ヶ月の研修期間で「新しいビジネスプランの創出」というひとつの課題に取り組みます。この研修はそれぞれのアイデアや学習成果の質を問うもので、優劣を競うものではありません。ここでは社会やお客さまとはいったん距離を置き、自身の課題感をベースに内なる声と対話。各々が考えたビジネスアイデアに対して、顧客を獲得する経路や収益の流れ、価値を提供するリソースなどを検討しながら、固定観念を打破する喜びと自身の可能性を発見してもらうことを重視しました。検討中のビジネスアイデアは、社外の投資家や起業家、起業を目指す学生との対話を通じてより良いものに改善。周囲の知を集めて生かすことや、少しでも良いものを作ろうとするマインドを学びます。また自分の想いをグラフィックで表現したりデザイン思考を学んだりするなど、テーマの深化や相互理解に役立つユニークなカリキュラムも豊富に用意しました(図2)。

図2 共創型のSI技術者育成研修の特徴

こうしてスタートしたこの研修の講習会場は、さまざまな議論を通して意見を交換しながら問題解決へのアプローチを探る受講者たちでいつも活気に満ちています。日々の業務における真剣な眼差しとは別の、一人ひとりのキラキラした目が印象的です。「問題の抽出や課題を深化させる方法がわかった」「アイデアを形にする思考のプロセスがわかった」といった声が修了した技術者から届くとともに、受講する前とは別人のように変わった印象を受けます。仕事に対する前向きな姿勢や積極的に周囲と関わろうとする意識など、イノベーションを起こすために必要なマインドセットがしっかり行われている様子です。イノベーションの種は技術者の中にまかれ、既存の枠組みを破壊し、新しいマーケットを創造するイノベーションとして花を咲かせることを確信しています。

当社では今後、研修スペースの拡充やビジネスの創出を支援するプログラムの策定、技術者だけでなく営業担当者など研修対象者の拡大により、デジタル人材育成の成果をさらに発展させる施策を進める予定です。

変化の著しいコンピューター業界において先進のデジタル技術の研鑽(けんさん)に努め、社会インフラ事業に代表されるような安心で安全な品質の高いシステムをお届けしていくとともに、新たに育ったビジネスプロデューサーたちがお客さまと共に新たな価値を創造していく。さらにこれらを共存させ、連携させたバイモーダルITで、東芝デジタルソリューションズはお客さまにとって価値あるDXを実現していきます。

※この記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年4月現在のものです。

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