[第23回]一人ひとりの成長や可能性を信じて


2019.5.20

「日に新たに、日々に新たなり」(土光敏夫) 清新な気持ちになる機会はさまざまだが、その中には入学や卒業もある。先般、機会があって参加した卒業式では、校長が米百俵の志を通して学びの大切さを話されていた。

戊辰戦争で敗れた長岡藩は、財政が困窮した。藩士たちはその日の食にも困る状況の中、その窮状を聴いた三根山藩から百俵の米が届けられた。藩士たちは、これで腹いっぱいご飯が食べられると喜んだが、大参事の小林虎三郎は、米を藩士に分け与えず、学校を創設する。「米百俵を食べてしまえばすぐになくなる。教育にあてれば、将来の一万、百万俵になる」と藩士に説いた。

目の前の仕事や日々の生活に追われるだけでなく、学びを、そして自分への投資を忘れてはならない。余談だが、小生の母校は、その米百俵があればこそ147年前に創設された。先人の志に感謝するとともに、ご恩返しの人生をと、心新たにした。今回は、人財への投資について考えてみたい。

大事な社会の預かりもの

松下幸之助は「企業は公のものだ」と考えていたことは良く知られている。このため、従業員について「うちの社員だ」という考え方ではなく、「大事な社会からの預かりもの」と思っていた。

うちの会社に入ったら、うちの社員かもしれないが、入社した社員へのこれまでの教育投資の大半は税金を使っている。つまり、公のお金を使って、この人がここまで育ってきたわけだから、この人をうちでお預かりしているというわけだ。今年も大事な社会からの預かりもの“新入社員”を迎えた。

学び続ける社会人の育成

先般、セミナーへ参加したとき、私の関心を引いた言葉に『学び続ける社会人の育成』があった。企業内大学「Toshiba e-University」を創設した時に作成したビジョンの一つが『学び続ける人材の育成』であったからだ。また、ほぼ同時期に始めた人間力講座は『自分で気づかなければ、自分磨きは始まらない』との信念のもとに、あくまでも自己啓発に拘った。セミナーの登壇者は「一度学んだものが長く使える時代は良かったが、イノベーションが常に求められる今では、常に学び続けることが重要だ」と主張していた。

学び続けることには賛成だが、学んだすべてが使えないわけではないはずだ。身につけた技術やスキルは、イノベーションの波の中で、常に変化し続けているが、不変のものもある。それこそ、“人間力”ではないだろうか。

人間力講座に登壇いただいた沖縄教育出版の川畑保夫社長(当時)の言葉を思い出した。「会社の売上げを伸ばしたいと思ったら、投資するでしょう。人間も一緒です。自分の給料を5%上げたいと思ったら、年収の5%を自分に投資することです」と言われていた。投資には、お金と時間がある。先の人間力講座は自己啓発であり、自己投資のための講座とも言える。

自分自身をふり返っても、英会話教材、大学の通信教育で人間学を学び、人間力をテーマにした書籍購入、採用業務に活かせればとの思いで始めたキャリアコンサルタントの資格取得・更新等へ投資してきた。

会社として学びの場を用意することは大切だ。しかし、何でも会社任せではいけない。学び続ける社会人とは、自己投資を続ける社員のことではないだろうか。

「成功の要因は、会社の中での時間中になく、私生活での時間中にあるというわけだ。会社で頭を使ったり努力したりするのは、あたりまえで、大部分の人がそうしているのだ。ところが、家に帰ってからの時間をどう使っているかが、だんだん差をつけてくる。」(出町譲著『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』)

自分で、自分の時間をどのように使うのかをより真剣に考えることから、働き方改革も始まるのではないだろうか。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
ICTソリューション事業部 HRMソリューション部
真野 広

※記事に掲載の、社名、部署名、役職名などは、2019年5月時点のものです。


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