従業員総活躍の企業づくり 
~働き方改革からタレントマネジメントへ~


講師:東芝デジタルソリューションズ株式会社
   ICTデジタルソリューション事業部
   HRMソリューション部
   HRMソリューション技術担当 参事 萬 大祐

セミナー開催レポート
Generalistの日

毎月、東芝デジタルソリューションズが人事の皆様への情報提供の場として開催している小セミナー「Generalistの日」。 今月は、「従業員総活躍の企業づくり」と題し、今、人事が取り組むべき2大テーマ「働き方改革」と「タレントマネジメント」についての現状と課題を整理し、「今後目指すべき方向性」をご提案させていただきました。
その概要を、ご報告いたします。

働き方改革が目指してきたもの


働き方改革への取り組みの背景には、将来予測されている労働人口の激減があります。内閣府が毎年発表している高齢社会白書によると、2065年には労働人口は現在の約6割弱、今より3000万人減少するという予測がされています。
その対策として、育児・介護中の人材や高齢者、外国籍の人材など、多様な事情や価値観をもった人材を労働市場に維持し、そして新たに人材を惹きつけるために、国をあげて推進しているのが、この働き方改革です。

ほとんどの企業がまず取り組んだのは、「長時間労働の是正」です。従業員のワークライフバランスの向上や、残業代の削減を目指して取り組まれてきました。目標退社時間を決める、ノー残業デーを設定する、といった取り組みだけでなく、所定労働時間自体を短くする。36協定の内容を見直す。残業が多いのは適切にマネジメントできていないからという課題設定をして、マネジメント教育を再徹底したという企業もありました。

次に多いのが、「業務の標準化、プロセスの簡素化・効率化」の取り組みです。より少人数、あるいは少ない時間で同等以上の生産性を確保できるようにすることを目指しています。そのために、RPAやチャットボット(Chat Bot)等の導入による省力化や業務プロセスの簡素化、規定/ルールなどの見直しが行われています。
「テレワーク」への取り組みも進みました。育児・介護との両立や、通勤時間を減らすことによるワークライフバランスの向上、生産性の向上を目指して取り組まれました。それと同時に、「さぼられないように条件付けをしたい」「テレワークができない業務との不公平感をどうすればいいか」といった、新しい人事管理のやり方に迷う声を聞くようになっています。
また、現時点では取り組み数としては多くはないものの、例えばクラウドワーカーなどの「社外労働力の活用」や、「ピープルアナリティクス」、「副業の解禁」なども、これから確実に様々な企業が取り組んでいくことになるでしょう。

このように、既に多くの企業で様々な取り組みを行っています。残業時間が大幅に減った企業がニュースになるなど、具体的な変化も起き始めています。
しかし、従業員の7割弱は「働き方改革が進んでいるとは実感していない(※)」という実態があります。これはなぜでしょうか。一体何を考えなければいけないのでしょうか。

そのお話をさせていただく前に、もう1つのテーマ、「タレントマネジメント」の現状と課題を整理したいと思います。

タレントマネジメントの現状


タレントマネジメントが人事の焦点の1つになっている背景には、労働人口の減少に加え、技術や方法論の変化と、そのスピードの速さがあります。
例えば最近、HRテックやFinテック、Edテックなどの新しい用語が生まれているように、新しい技術を駆使して、社会に革新を起こす可能性をもった仕組みが次々に登場しています。それに、「誰が対応できるのか」が大きな課題になります。対応できる人材がいるのかいないのか、それは誰なのか、いない場合はどうするのか。人材という貴重な戦力を効率的に活かしていくにはどうすればいいのか。
この課題に対処するための仕組みや考え方が、タレントマネジメントです。

その際、ツールとしてタレントマネジメントソリューションを導入するなどの投資を伴うことが多いため、せっかくなら様々なことができるほうがいい、として多くの目的を設定することがあります。
それは、悪いことではないのですが、タレントマネジメントの成果をあげるために最も重要なのは、本当にしたいこと=目的が明確にされていることです。これができていないため、途中で取り組みを辞めてしまったというケースが、実際に、本当に多いのです。例えば、何か役員から要望をうけても、それに応えるためにはタレントマネジメントソリューションで収集した情報だけでは不足で、人事が手動で、ほぼ今まで通りの手間をかけて資料を作らなければならない状況が続いたとしたら、「システムの維持に、これだけのお金をかける必要はあるのか」、という結論になってしまうでしょう。
ですから、弊社のようなタレントマネジメントソリューションを提供している企業は、システムを使い続けていただけるために、この目的の部分の検討に、特に力を入れます。例えば、「人材育成の効率を向上させたい」ということが目的であれば、育成とは何を指すのか。育成のベースとなるキャリアマップなどが定義されているかなどを確認します。「目標管理を徹底させたい」のであれば、単に設定した目標を収集するだけでは、意味がないはずですので、目標管理のプロセスや成果をうけて、何を、どのような方法でフィードバックするのか等、その情報の使い方を事前に検討をします。

タレントマネジメントの成否に大きな影響を与えるのは、導入前の事前検討なのです。私たちは、この事前検討には4つの検討ステップがあると考えています。
1つめは、先に申し上げた「目的の明確化」です。そして2つめは、収集した人材情報を「使う人、見せる人の明確化」をすることです。経営者や人事だけでなく、事業部門の人材情報を活用してもらうことを考える場合は、開示する情報の範囲を決めたり、場合によっては感情的な抵抗に対する配慮をしておくことが必要です。
3つ目は、「管理項目の確定、管理軸が統一」です。タレントマネジメントの目的によっては、管理すべき項目が異なりますので、それを確定すること。そして、評価のグレードが異なっていたり、評価の重みづけが違っている、そんな現状があるかどうかを洗い出し、対応を明らかにしておくことです。
そして4つ目、管理する情報は更新されていかないと、結局使えないものになってしまいます。「更新するプロセス」を明確化することも大事です。それらの事前検討を経て、情報の収集に取り組んでいくというのが、基本の進め方です。

働き方改革が、様々な人材が心身ともに健康で働くことができるためのベースであるとしたら、タレントマネジメントはその力を最大に活かすための仕組みです。タレントマネジメントが登場した当初は、選抜人材だけを対象にした取組みが多かったのですが、この2-3年で急速に、全従業員を対象とする取組みに変化してきています。

労働人口の減少は全従業員の底上げを必要としますし、どんどん人材を切り捨てていくようなやり方は日本の文化に合わない、ということへの再認識もあります。イノベーションを起こす人は一部のハイパフォーマーかもしれませんが、それを実現するのは全従業員です。全員がきちんとパフォーマンスをだしていかないと、組織全体のイノベーションにつながっていかないのです。
政府のキャッチコピーのようですが、まさに従業員が総活躍する企業を作っていく必要があるのではないでしょうか。

ではそのために、私達は何を方針として動いていくべきなのでしょうか。

目指す先


先ほど、様々な取り組みが進んでいるにも関わらず、働き方改革が進んでいると実感していない従業員は7割弱もいるとお伝えしました。これはなぜなのでしょうか。

利益が上がった、生産性が上がった・・・これは、個人が直接的な影響をうけることではなく、誤解を恐れずにいってしまえば、個人にとってはどうでもいいことかもしれません。残業が減った、休みが増えた・・・これはうれしいかもしれませんが、だからといって「仕事が好きになる」ことに結びつくわけではないでしょう。

それは、個人が仕事に対して本質的に求めているものが、「やりがい」だからではないでしょうか。

仕事の「やりがい」は、生きがいの一部といえます。仕事に「やりがい」を感じられれば、生産性や業績のアップという結果にも直結するはずです。
ただ、その時に難しいのは、何にやりがいを感じるかということは、個人によって異なるということです。良かれと思ってやった取り組みであっても、関心を示されなかったり、不満を感じたりする個人は必ずいます。
そのままでは、働き方改革もタレントマネジメントも、意図した効果が得られない状態が続いてしまいます。

では、どうすればいいのでしょうか。
それは、一律の施策を実施するのではなく、「個人に寄り添う」取り組みを進めていくことしかないのではないでしょうか。

働き方改革では、個人が自分に最適な働き方を、自ら選択できる状態を実現していくべきでしょう。例えば、とことん取り組みたい時に一律に残業規制されるのはうれしくない場合もあるでしょうし、テレワークも不公平感や会社の不利益が出ないように適用条件を厳格化するより、個人の事情を優先させた適用を考えていくべきでしょう。

タレントマネジメントでは、人の資質を把握するための情報を、定量的な情報だけでなく、より定性的な情報にしていくべきだと考えます。例えば、辞令に記載されるような組織名だけではなく、その組織でどんな仕事を担当したのかまで把握したり、資格やTOEICの点数といった情報だけではなく、「細かい作業が得意」「この分野の知識が豊富」といった情報を把握したりすることです。
そして、その人の現在の実績だけではなく、可能性を発見するために活用することではないでしょうか。

こうした取組みは、1つの施策が一段落したからこれは完了で次の施策を行う、というものではなく、従業員が総活躍するという視点で継続的に課題を見出し、施策を更新していくことが必要になるということではないかと思っています。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
インダストリアルソリューション事業部 HRMソリューション部 HRMソリューション技術担当
主任 萬 大祐

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