東芝デジタルソリューションズ株式会社

社員インタビュー

日本企業で初の海外向けITSパッケージを開発、ベトナムの高速道路網整備に貢献
ベトナム、インド、日本を結んだプロジェクトチームの取り組み

本プロジェクトの関係者

ベトナムでは全長1,811kmの南北高速道路の建設が計画されている。その中で、ホーチミン市の東側に位置する約55kmの区間へのITS設備全般(※)について、株式会社東芝、株式会社日立製作所、伊藤忠商事株式会社の3社JV(企業共同体)が、ベトナム高速道路公社(VEC:Vietnam Expressway Corporation)から受注。2016年にはベトナム現地での機器設置工事、試験運用を経て、2017年には正式運用が始まる予定だ。

今回は、この3社JVのリーダーである東芝 コミュニティ・ソリューション社のもと、東芝インダストリアルICTソリューション社と東芝ソリューション株式会社が担当した、中央装置の応用ソフトウェアのプロジェクトチームの取り組みを紹介する。


※ITS:Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)
最先端の情報通信技術を用いて人と道路と車両とを情報でネットワークすることにより、交通事故、渋滞などといった道路交通問題の解決を目的に構築する新しい交通システム。

組織イメージ

海外向けITSシステム研究開発メンバーを中心にプロジェクト体制を構築

和氣 正秀

株式会社東芝
インダストリアルICTソリューション社
製造・産業・社会
インフラソリューション事業部
社会インフラソリューション技術部
(東芝ソリューション株式会社
道路ソリューション部と兼務)

参事

和氣 正秀

2010年、(株)東芝 社会インフラシステム社(現、コミュニティ・ソリューション社)は、本案件について活動を開始した。東芝ソリューションは、そのもとで、海外向けの高速道路用の交通管制と料金収受を軸としたITSシステムの研究開発に着手した。そして、東芝・日立製作所・伊藤忠商事の3社JVがベトナム南北高速道路のホーチミン市東側に位置する約55kmの区間(ホーチミン-ゾーゼイ間)へのITSパッケージ納入プロジェクトの優先交渉権を獲得。2014年3月に契約が調印された。

3社JVにおいて(株)東芝はITS機器全般を担当し、このプロジェクト向けに東芝ソリューションはセンサー情報やカメラ映像をセンターで統括管理する交通管制中央装置、料金徴収データを管理する料金収受中央装置、道路設備の稼働状況を管理する設備監視中央装置、道路上に設置した大型表示器で情報を提供する道路情報板の中央制御装置について応用ソフトウェアを開発することとなった。

まず、海外向けのITSシステムの研究開発を行っていた国内メンバーを中心に、東芝ソフトウェア開発ベトナム社、東芝ソフトウェア・インド社のエンジニアも交えたプロジェクト体制を構築し、開発を進めることにした。

2014年9月、料金収受システム開発を担う東芝ソフトウェア・インド社、交通管制、設備監視、道路情報板の各システム開発を担当する東芝ソフトウェア開発ベトナム社のメンバーを東京に集め、プロジェクトのキックオフミーティングを開いた。「来日したメンバーには、中日本高速道路管制センターの見学や、高速道路の実走行など、さまざまな設備の状況を見て、体験することにより、日本の高速道路の実態を理解してもらいました」と東芝 インダストリアルICTソリューション社 製造・産業・社会インフラソリューション事業部 社会インフラソリューション技術部(東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部を兼務)の参事 和氣 正秀は振り返る。

ベトナム地図イメージ

ベトナム、インド、日本の認識を統一する、運用定義。

湯原 崇

東芝ソリューション株式会社
ソリューションセンター
道路ソリューション部

主任

湯原 崇

プロジェクトでは、研究開発を進めてきた日本の高速道路機能の主要部分を取り出したスモールパッケージにベトナム向けの機能を付加。発注者のベトナム高速道路公社(Vietnam Expressway Corporation)(以下、VEC)から出された提案依頼書(RFP)をもとに、ソフトウェアの作成を進めていった、と東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部 吉田 英聡は語る。

東芝ソリューションはVECへの提案と並行して、ベトナム語化対応などのローカライズ機能の開発に着手した。同社のメンバーが開発プロジェクトで最も工夫したのは、日本、ベトナム、インドのそれぞれのエンジニアが高速道路システムへの認識を統一することだった。和氣の発案で、オペレーションプロシージャ(運用定義)部分から入り、システムの機能を理解できるようにした。「何のための機能で、それがあることでどうなるか、という点を丁寧に説明します。これを重ねていくことで、インドやベトナムのエンジニアもシステムの内容を理解できるようになり、お互いの認識が合うのです」と東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部の主任 湯原 崇は語る。

3ヶ国の、高速道路に対する知識や認識の違い

吉田 英聡

東芝ソリューション株式会社
ソリューションセンター
道路ソリューション部

吉田 英聡

それでも、高速道路に対する常識的な知識の差は大きかった。例えば日本側のメンバーは、サービスエリア(SA)といえば、高速道路上の休憩施設だということを知っている。ところがベトナム側のメンバーには伝わらない。ヒアリングを重ねた結果、高速道路上での携帯電話のサービスエリア(受信可能エリア)と勘違いしていたと判明した。このように話がかみ合わないことはいくどとなくあった。

料金収受もETCが完備し、自動化が進んでいる日本とは大きな違いがある。「日本では4レーンある料金所の場合、2つがETC専用、1つがETCと一般(非ETC)の共用、1つが一般というのが典型的なケースです。これに対して、ベトナムでは3つが一般で、1つがETCと一般の共用と、自動化は行わず、人が仕事をする部分をシステムに反映しておく必要があります。このプロジェクトに入る前に、日本の料金システムを担当していましたが、さまざまな点で随分違いがあると感じました」と東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部 吉田 英聡は語る。

異なっていたもう1つの例が料金収受システムの勤務シフトに対する考え方だ。日本では収受員がシステムを立ち上げたら、勤務開始、止めたら、勤務終了である。それに対して、ベトナムやインドでは、朝、夜、深夜の3交替8時間単位のシフト勤務の中で、収受員が変わっても、ひとつの勤務シフトという考え方である。料金収受システムとは別に勤務表があり、それにしたがって収受員が勤務していて、システムと収受員の勤務がひも付いていない。このように、国の文化や仕組みのようなものの違いが多々あった。

海外と日本を行き来、グローバル採用社員も参加

グエン・ビン

東芝ソリューション株式会社
ソリューションセンター
道路ソリューション部

グエン・ダク・ビン

本プロジェクトでは、料金収受システムのソフト開発リーダーである吉田が日本と海外で半分ずつ勤務し、海外ではソフトウェアを開発しているインドとベトナムを行き来している。一方、交通管制システムと道路情報板システム担当の湯原は日本とベトナムで半分ずつ勤務している。さらに、ベトナム出身で、2013年東芝のグローバル採用により東芝ソリューションに入社して、本プロジェクトに入ったメンバーもいる。

「プロジェクトに配属された時は、日本のシステムの機能について理解できませんでした。しかし、1年間OJTで日本のシステム運用を勉強する中で、日本のシステムが非常に高度であることが分かり、大変驚きました。ベトナムに適用できるのはその10分の1程度ですが、機能を追加していき、ベトナムに合ったよいシステムにしていきたいと思います」と東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部 グエン・ダク・ビン(以下、ビン)は語る。

また、入社2年目で料金収受システムの研究開発に携わり、そのまま道路プロジェクトに参加したメンバーもいる。「当初はインドのメンバーへの依頼事項をうまく伝えられませんでした。そこで、『日本ではこういうやり方をしますが、インドはどうなのですか』と質問したり、シーケンス図を使って設明したりしながら、コミュニケーションを深めながら進めていきました」と東芝ソリューション ソリューションセンター 道路ソリューション部 塚原 結衣は振り返る。

ITがいくら進歩しても、チーム力を発揮するためには、対面でコミュニケーションをはかることが、とても重要なことなのだという。

それぞれの知識をすべてさらけ出すことで、ベストの結論を導き出す

塚原 結衣

東芝ソリューション株式会社
ソリューションセンター
道路ソリューション部

塚原 結衣

開発を進める中で、当初はベトナム側の考え方と齟齬をきたす場面もあった。そこで役に立ったのは、UMLのようなツール。その積極的な活用で、共通の理解を得ることができるようになった。

料金収受システムは、開発はインドで行っており、認識を一致させるにはまずお互いの考え方を述べ合って、違いを明らかにするところから始める必要があった。そこで、ベトナムのやり方、インドのやり方、そして日本のやり方の3つを並べて議論し、どれが最適かをエンジニア全員で考えて、皆が納得した結論を出してきた。
「お互いに持っている知識をさらけ出そうと、ホワイトボードを囲んで、ベトナム人とインド人、日本人で議論し合いました。良いシステムを作ろうという想いはチーム全員が共通して持っていて、今までの経験や常識が違うだけであり、お互いの考え方を理解し合いながら前向きに議論していけば、ベストな答えが見つかると確信できました。」(吉田)。


情報共有や一体感を持つことの重要性

上記のように、海外のプロジェクトでは、知識や認識の違い、言葉の壁などもある。しかし、プロジェクトメンバーはさまざまな工夫をしながら、それを乗り越えてきた。

また今回は、道路ソフトウェアの開発プロジェクトとして初めての海外案件だったため、使命感もあった。プロジェクトメンバーのモチベーションは高く、「開発の方向性を一致させるための情報共有や一体感を持てるような人間関係の構築を特に意識してきました。チーム全員が、常に前向きに、明るく積極的なコミュニケーション力を発揮できたことがプロジェクトを順調に進めることができた大きな要因だと思います」(和氣)。

「とても楽しく、色々なことを学ぶことができました。今回のプロジェクトで、多くの課題をチーム力で乗り越えながら、明るい雰囲気で仕事をすることができて、とてもよかったと思います」(ビン)。

今回のITSパッケージは2016年に現地で導入、試験運用を経て、2017年に正式運用が開始される予定だ。日本企業で初の海外向けITSパッケージに従事したチームは、現在も正式運用を見据え、さまざまな違いを認め合いながら課題を乗り越え、一体となって邁進している。東芝グループの技術者たちのチーム力は、今後もベトナムの高速道路を支えていく。


JVリーダー: 株式会社東芝 コミュニティ・ソリューション社
プロジェクト責任者のコメント

本プロジェクトは、日本のODAとして初のITSパッケージ案件として世界の国々から注目されており、社内でも、海外事業展開における重要なプロジェクトと位置づけられています。東芝はJV(企業共同体)のリーダー企業として、お客さまから「東芝・日立製作所・伊藤忠商事の皆さんにお願いして良かった」と喜んでいただくという同じ目標に向かって、このプロジェクトの関係者と頑張っています。

今回のインタビューにもありましたが、各社のメンバーそれぞれが得意分野で能力を発揮すれば、チームとして素晴らしい力を生み出すことが可能です。チーム力を大切に、JV関係者全員で2017年の本稼動に向けて邁進して参ります。

川見 篤史

東芝 プロジェクト責任者
株式会社東芝 コミュニティ・ソリューション社
コミュニティ・ソリューション事業部
道路ソリューション技術部
技術第三担当

参事

川見 篤史(Kawami Atsushi)



*関連リンク:ニュース・リリース(2014年03月18日)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2014_03/pr_j1802.htm

*記事内における主な数値データ、社名・組織名・役職などは公開時(2016年3月)のものです。