東芝デジタルソリューションズ株式会社

データアナリティクスの最前線

O&Mの最適化と電力需要予測 IoT時代に進化するデータアナリティクス

製品やサービスにおけるデータ分析・活用は、コストの最適化や顧客満足度の向上、さらには社会全体の効率化など、その効果は多くの可能性を秘めています。 東芝グループでは多様な事業領域で、製造過程やお客さまの現場から収集したデータを基に、さまざまなデータアナリティクスに取り組んでいます。 ここでは、「機器のオペレーション&メンテナンス(O&M)最適化」と「電力需要予測」の二つの事例を中心に、IoTとデータアナリティクスの最前線をご紹介します。

東芝デジタルソリューションズ株式会社
IoTテクノロジーセンター データ利活用技術開発部 部長(博士 工学)

岡田 光司 - Koji Okada -

1999年入社。情報セキュリティ技術の研究開発を経て、現在はデータサイエンティスト集団を率いた
データ分析・利活用技術の研究開発、および、IoTビッグデータ活用ソリューションへの事業展開を推
進。

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コスト削減と売上増につながる製造・O&M分野でのIoT活用

 私たちは、IoT(※1)分野で行っている東芝グループの幅広い研究開発の中で、センサーなどのモノから発せられるデータの分析と活用に取り組んでいます。
 東芝グループは、国内外に数多くの工場を抱えています。自社工場にセンサーを取り付け、データを収集するのは比較的容易です。また、お客さまに納めた機器の中には、エレベーターやMFP(※2)など、常にデータを収集し、機器の状態を遠隔で監視しているものもあります。こうしたことから、製造・O&M(※3)分野では、データアナリティクスに関する先行的な研究開発が行われてきました。
 製造・O&Mの現場には、データ活用で解決できるさまざまな課題があります。例えば、製造装置の故障を予測して、突然、製造ラインが止まるような事態を防ぎたい。あるいは、修理時間の短縮、在庫部品の最適化などの課題もあります。これらを解決すれば、コスト削減につながります。
 IoTを売上増につなげることもできます。製品が故障した原因を特定して製造や開発にフィードバックすれば、品質の向上や次期製品の適切な改良が可能です。また、使用量や利用時間に応じて課金するパフォーマンスベースのサービスにおいては、ダウンタイムの減少は売上増に直結します。

事象パターン抽出技術を用いた予防保守がWin-Winを実現

図1 機器ログデータ分析による故障個所の推定

 このような製造・O&M分野の課題を解決する上で核となる技術の一つが、私たちが開発した事象パターン抽出技術です。この技術は、ある結果に至る事象の特徴的な時系列的傾向を抽出できます。例えば「10分以内に『A→B→C→E』という順でイベントが起きた場合、トラブルが発生する確率は80%」といった知見が得られます。こうした知見をルール化して機器の遠隔監視システムに適用すれば、保守作業者が気づく前にトラブルの予兆をとらえ、予防的な保守作業を実現することが可能となります。機器のダウンタイム削減はお客さまの満足度を向上させるだけでなく、サポートチームを運営するメーカーにもメリットがあります。緊急の駆けつけ回数が減り、オペレーションコストが削減されるなどです。
 また、この技術はトラブル発生後でも効果を発揮します。機器に問題が発生した際、ログやセンサーデータから原因を推定して、メンテナンスの効率を高められます。必要な部品や道具類などをあらかじめ用意して、現地に向かうことができるからです(図1)。
 O&Mに携わる熟練の技術者は、ある種のトラブルを予測する能力を持っています。機器の動きや音の微妙な変化に気づき、 「この部分が故障するのでは」「このトラブルはこういう原因では」と予測して対策を考えます。しかし、熟練の技術者といえども、年々複雑化するシステムに対応するには限界があります。トラブルに至る事象の組み合わせがあまりにも多岐にわたるからです。このような課題に対し、事象パターン抽出技術は、大きな効果を発揮します。

電力消費のタイプを分類して、家庭ごとの電力需要を予測する

図2 電力消費パターンによる需要予測プロセス

 次に、電力の需要予測について。ここでも、データアナリティクスはカギを握っています。
 電力が消費される家庭やオフィスなどに、スマートメーターやEMS(※4)を導入し、そのデータを集約することで電力の消費状況が可視化されます。電力消費と人々の活動は密接に結びついており、電力消費からはさまざまな知見を得ることができます。ここでは、一般家庭を取り上げた研究の一端を紹介します。
 家庭の電力消費のスタイルは、いくつかのタイプに分けることができます。30代男性の単身世帯では、「昼不在、朝のみタイプ」がよく見られます。平日の朝に消費が増え、日中は不在。休日は、わずかに消費が増える程度です。世帯人数が4人程度の家庭では、「高収入・多消費タイプ」となるケースもあります。特に日中の消費が多く、電力消費グラフは富士山型になります。60歳以上で夫婦2人暮らしの家庭では、朝昼晩の食事時に小さなピークが現れる「三食山タイプ」が見られます。
 このように、私たちはさまざまな家庭の電力消費を分析し、代表的な16パターンを発見しました。ただ、一つの世帯が同じパターンを日々繰り返すわけではなく、あるパターンから別のパターンに遷移することもよくあります。 1シーズンの1世帯当たりの平均遷移数は4.5パターン。そのパターンの構成から、世帯の属性を推測することもできます。
 パターンの組み合わせとパターンが移り変わるイベントとの関係を把握することで、電力需要を予測できます(図2)。 その重要なイベントの一つが気象です。例えば、「休日・晴れ・午前10時の気温20度」という情報を参照して、 ある家庭の行動を一定の範囲で予測することができます。 夕方まで外出する可能性が高ければ、日中の電力需要は低いままで推移するでしょう。
 こうした情報を一定規模以上にまとめれば、地域の電力需要を予測できます。予測の精度を高めることで、電力事業者にとっても有用な情報となります。
 電力消費から推定した世帯プロフィールは、広告に生かすこともできます。このプロフィールには世帯の人数だけでなく、生活スタイルなども含まれます。世帯プロフィールを用いることで、例えば、「どのくらいの世帯数が夕方まで外出するだろうか?」など、世帯の行動を一定の範囲内で予測することができます。外出する可能性の高い世帯の人に対しては、お買い得メールを送るといった外出先で有効な広告を行うことが可能です。

医療、物流、広告などの分野でのデータアナリティクスの先行事例

岡田 光司
 このほかにも、東芝グループでは多様な分野でデータアナリティクスを生かしたサービスの実現に取り組んでいます。
 例えばヘルスケア分野では、健康診断のデータとレセプトデータを突き合わせて分析することで、糖尿病のハイリスク者を抽出し、医療機関の受診を促すといった、病気の重症化を予防するソリューションを東芝の健康保険組合を対象にスタートしています。また物流分野では、倉庫作業員の行動をリストバンドに埋め込んだセンサーで把握し、効率的な動きをサポートする試みにも取り組んでいます。さらにはリテール分野を対象に、デジタルサイネージを視聴している人物の顔から年齢と性別を認識し、その人にマッチした広告を表示するという取り組みも試験的に実施しています。
 将来に向けて、データアナリティクスのすそ野を広げるためには、分析の自動化がカギとなります。システムが入力データから自動的に対象を学習しモデル化する機械学習の技術です。当社では、画像認識や音声認識などで、既に機械学習が大きな成果を上げています。多種多量なセンサーデータから活用目的に合ったデータだけを自動的に選択するなどといった、ビッグデータならではの課題にも機械学習を適用していきます。さらにはDeep Learningをはじめとする最先端の学習手法を取り入れることで、環境の変化に即応し、自動的に分析を最適化していく手法にも取り組んでいきます。
 さまざまな先進技術についての研究を重ねつつ、各産業分野の知見を深めることで、社会に役立つIoTを追求する。そんな取り組みを、私たちは粘り強く続けていくつもりです。

※1 IoT:Internet of Things

※2 MFP:Multi-Function Peripherals プリンターなどの多機能周辺装置

※3 O&M:Operation & Maintenance

※4 EMS:Energy Management System

※本内容は東芝デジタルソリューションズ株式会社グループの情報誌「T-SOUL15号」の特集から転載しています。
※本記事に関する社名、部署名、役職名などは2015年7月現在のものです。
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