ビジョンから実践へ。東芝の「次世代ものづくりソリューション」最前線

実証された、東芝の「次世代ものづくりソリューション」/外山 尚介,林 哲也

ものづくりの次世代化の実現に向けて、東芝はこれまで数多くのプロジェクトに取り組んできました。その中でも2015年1月よりスタートした、オムロン株式会社様の草津事業所における製造現場の生のデータを活用した実証事例は、IoTで集めたデータをお客さまにとっていかに価値ある情報に変換していくかという命題に対し、多くの知見とノウハウを与えてくれました。ここでは3月に提供を開始した、ものづくりBigData分析・活用ソリューション『Meister Analysis』の雛形ともいえる、この草津事業所における品質向上の取り組みについて紹介します。

多品種少量生産で、不良品ゼロを目指す

 オムロン様は、制御機器やファクトリーオートメーションシステム、健康医療機器、電子部品、車載電装機器などの領域で事業を展開する、日本の〝ものづくり〟を代表する企業の一つです。滋賀県の草津事業所では、産業機器を制御するPLC(Programmable Logic Controller) を製造されています。品質向上に向けた弛まない努力を続けられ、不良発生率が100万分の1レベルという驚くべき成果を上げていましたが、不良品ゼロを目指したさらなる品質革新を実現すべく、IoT※1を活用した新たな方法を模索されていました。

 今回の実証で取り組んだ対象は、このPLCに組み込まれるプリント基板の製造ラインです。その特徴を一言で表すと、超多品種少量生産。オムロン様では、さまざまな用途に対応できる豊富なバリエーションの数千品目にも及ぶPLCを作られているため、パソコンの基板のように同一の製品を大量に生産することはできません。中には年に数回しか生産しない品種もあるといいます。

 このような少量品で、これまで以上の歩留り向上を追求し、まれにしか起こらない不良の発生を防止することは容易ではありません。不良品ゼロという高い目標を達成するため、ICTを活用して製造プロセスで得られる膨大なデータを分析し、不良が発生するリスクを最小化する取り組みが求められていました。

  • ※1 IoT:Internet of Things

製品一品ごとに起きた「何らかの異常なこと」を見える化する

図1 オムロン様でのプロトタイプシステム概要

 さらなる品質革新の実現を目指すオムロン様の取り組みに採用されたのは、東芝独自の「事象パターン分析技術」を駆使したデータ分析により、〝なぜその不良が発生したのか〟という不良発生の要因とメカニズムを推定する仕組みでした(図1)。

 オムロン様では、今までも、不良が発生した場合に、製造装置のデータを活用して要因を分析する取り組みを行っていました。しかし、装置から得られるデータは装置別に独立していたため、不良が発生すると、その内容を装置単体のログやセンサーデータと逐一突き合わせながら、通常とは異なる〝何らかの異常なこと〟を探し出し、要因を推定する必要がありました。また、製造プロセスでは複数の装置を利用していることが多く、ある不良が特定の装置における一つの〝何らかの異常なこと〟に依存するとは言い切れない場合もありました。膨大なデータの中から、不良が発生する要因を見極めるために、複数の〝何らかの異常なこと〟の組み合わせと不良との関係を見いだすことは、人間の力では限界がありました。

 これに対して東芝では、「東芝 IoTテクノロジーセンター」のメンバーを中心にプロジェクトチームを結成。さらに、東芝グループ全体の生産技術の先行研究開発を行う「東芝 生産技術センター」など、グループ内に蓄積されたあらゆるスキルや知識、ノウハウを結集させ、製造装置からどのようなデータを収集しどのように分析すれば、オムロン様の課題を解決できるかを検討しながら取り組みました。

 装置のログデータやセンサーデータなどのプロセスデータ、検査結果データ、MES(製造実行システム)のデータなどを、製品の一品一品ごとにひも付け。さらに、統計処理を行ったしきい値計算によって、製造プロセスで発生している〝何らかの異常なこと〟を〝事象(イベント)〟として抽出(イベント化)することで、どの順番でどのような異常なことが発生し、どのような品質結果になったのかを把握。その後、東芝の事象パターン分析技術を適用して、不良に共通して発生しているイベントの組み合わせ(パターン)を抽出し、不良とイベントの発生件数や傾向、あるいは、発生パターンの件数と関連する製造プロセスなどを分かりやすく表示することで、多品種少量の製造ラインにおいて、より高度な不良発生の要因を探ろうとしました。

見える化したイベントデータから、新たな形式知を獲得

 事象パターン分析技術を用いた東芝のデータ分析が、オムロン様の草津事業所で実際にどのように運用されているかを紹介します。

 オムロン草津事業所では、プリント基板は次のような順で製造ラインを流れた後、製品として組み立てられます。
①はんだ印刷… 基板の所定の位置にはんだペーストを塗布
②部品マウント… ペーストが塗布された基板上に電子部品を配置
③リフロー… 高熱を加えてはんだペーストを溶かし、電子部品をはんだ付け
④検査装置… 画像検査装置および目視で不良がないかを外観検査

図2 事象パターン分析技術

 一枚一枚のプリント基板に、①から④の製造プロセスで得られたデータや検査結果データをひも付けていきます。こうして生成した大量な時系列データに対し、マウンタでの特定アラートの発生有無、リフロー炉での所定の範囲を超えた急激な温度変化の有無などをイベント化し、さらに、事象パターン分析技術によって、不良に共通して発生したイベントの組み合わせを抽出します。例えばある種類の不良において、「E」→「H」→「L」の順番でイベントが起きていることがわかった場合、この三つのイベントの組み合わせ(パターン)が不良の要因となっている可能性が考えられます(図2)。

 実際に得られたイベントのパターンをオムロン様にお見せしたところ、既知のもの以外に、製造現場で何となく感じられていたパターンや今までに見たことのないパターンが検出されており、未知のパターンについてはその発生メカニズムに踏み込んだ調査による要因の解明が行われるなど、分析の有効性を確認することができました。

 そこで東芝は、このような分析を製造現場における日々のカイゼン活動の中で行えるようにするプロトタイプシステムを作成しました。製造プロセスで発生したイベントやそのパターン、不良の有無や種別を、プリント基板の個体ごとに一連のデータがひも付いた形で、表計算ソフト上で一覧できる仕組みを提供。さらにBI※2ツール上で構築したユーザーインターフェースを通じ、これらやその発生件数、発生した製造プロセスなどを視覚化することで、より直感的に複数のイベントの相関関係を把握できるようにしました。特定の品目、特定の不良、特定の期間ごとなど、見え方の切り口を変えることも可能です。

 このように、分析データを見える化することにより、オムロン様の新たな〝気づき〟につなげ、日々の製造現場のカイゼン活動に生かすことができるようになりました。草津事業所では現在もデータ分析を続け、新たな形式知を蓄えながら一層の品質向上に取り組んでいます。

  • ※2 BI:Business Intelligence

「共創」を通じて、今後も次世代の品質改善に挑む

 2016年4月、東芝は次世代ものづくりソリューションの一つとして、今回の事例で検証された「事象パターン分析技術」を組み込んだ、ものづくりBigData分析・活用ソリューション『Meister Analysis』をリリースしました。今回のオムロン様との製造現場での実データによる分析と日々のカイゼン活動における検証の取り組みは、このソリューションを開発する上で、大変意義深いものであったと考えています。多品種少量生産にも対応する分析手法を確立できたことで、日本の製造業が目指すマスカスタマイゼーションの品質向上を、東芝が強力に支援していける手応えを得ることができたからです。これからも東芝は、お客さまとの「共創」を通じて技術を磨き、日本のものづくりの次世代化をリードしていくつもりです。

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