ビジョンから実践へ。東芝の「次世代ものづくりソリューション」最前線

信頼のソリューションが、大幅に機能強化/千葉 勝久,岡本 賢司,浜口 博一

「次世代ものづくりソリューション」を提供する中で、発売以来、製造業の主要な業務プロセスをサポートしてきた、グローバルものづくりソリューション『Meisterシリーズ』を刷新。現行の製品を、ものづくりの次世代化を見据えて強化していくという取り組みです。そこではまず、セミオーダー型PLMソリューション『MeisterPLM』、戦略調達ソリューション『MeisterSRM』、MESソリューション『MeisterMES』の機能を大幅に強化。各製品がどのような進化を果たし、お客さまにどのようなイノベーションをもたらすのか、ポイントを紹介します。

次世代ものづくり実現に向けての「第一歩」を提供

 ものづくりの次世代化を実現するためには、デジタル情報を統合し、製造業の全てのプロセスを相互に連携させることが必要です。しかし、各プロセスは互換性のないデータ形式や通信規格で個別に最適化されているケースが多く、バリューチェーン全体を最適化することは非常に困難でした。

 これに対して東芝では、製品のライフサイクルをつなぐ「水平結合」と、現場からマネジメントレベルまでの情報を結びつける「垂直結合」のフレームワークに基づいて、ものづくりの次世代化に向けた各種ソリューションを検討してきました。2016年4月には「情報収集」「情報蓄積」「情報活用」を一貫して支援する四つのソリューションをリリース(参照記事)。同時に、長年にわたり製造業の業務を支えてきた現行の製品を、ものづくりの次世代化に向けて強化することで、イノベーションのさらなる促進を実現したいと考えています。それが、グローバルものづくりソリューション『Meisterシリーズ』の刷新です。

 Meisterシリーズはこれまで、「つなぐ」をコンセプトに製造業の主要な工程である企画、開発、生産、保守をトータルにサポートしてきました。今回の刷新では、製品のライフサイクル全体の情報活用を可能とするPLMソリューション『Meister PLM』、購買・調達の最適化とリスク管理を行う『Meister SRM』、そして、工場の機器を上位システムとつなぎ、需要予測や生産計画の変化と連動して製造指示や生産進捗管理を行う『Meister MES』を、ものづくりのバリューチェーンの進化を見据えて強化しました。お客さまはこれらのソリューションを活用することにより、サプライチェーンの最適化や「つながる工場」を実現するとともに、第4次産業革命の第一の目標であるマスカスタマイゼーションの実現を目指せます。

 それでは、各ソリューションについて、紹介します。

セミオーダー型PLM『Meister PLM』

PLMを「広義」に捉え、「つなぐ」「蓄える」「活用する」を強化

 PLM(Product Lifecycle Management)は、製品の設計から生産、販売、保守サービスに至る製品のライフサイクルをデジタルで管理し、企業が目標とするQCD(品質・コスト・納期)の確実な達成と、競争力ある製品のタイムリーな市場投入、収益の最大化などを支援する仕組みです。

 しかしこれまでのPLMシステムは、図面の管理から発展してきた歴史的な背景や、サイロ化した個別業務システムをつなぐために多額のコストが必要となることなどの要因で、その適用範囲が設計情報の管理にとどまっていました。

 これに対して、Meister PLMは本来のPLMの目的である製品のライフサイクル全般にわたる管理を達成するために「つなぐ」「蓄える」「活用する」の三つの強化に取り組んでいます。

 まず「つなぐ」おいては、マスカスタマイゼーションおよびその先にあるパーソナライズ化に対応する第一歩として、パーソナライズドオーダソリューション(Meister PLM パーソナライズドオーダオプション)を提供しています。

 メーカーはこれまでも多様化する顧客の要望に対応してきましたが、今後はパーソナライズ化への対応、つまり「個客」の要望を具体的なカタチに変えてお客さまと共有し、その上で、適切なQCDの製品を提案して設計・生産に即座に展開する、ということが求められると考えられます。そこでこのソリューションでは、PLMとコンフィグレータや3DCAD、ERP※1がシームレスに連携する機能を提供。オンラインで入力された個客の要望を分析し、標準仕様を組み合わせた最適な製品仕様・見積・形状を自動的にお客さまに提示するとともに、個別対応が必要な場合にも、要求仕様を設計・生産に即座に展開します。こうして、標準仕様で対応可能な製品だけでなく、個別対応が必要な製品においても、引き合い活動から受注後の生産指示までのプロセスを大幅に短縮することができるようになります。

図1 Meister PLMで実現する広義のPLMのイメージ

 次に「蓄える」では、製品のライフサイクルコストや顧客提供価値とそれを基に展開される仕様(機能・性能)、構造(機械・電気・ソフト)を体系的に管理し、これを、ものづくり情報プラットフォーム『Meister DigitalTwin』に蓄積されている、個客ごとの製品の作られ方や使われ方といった個々の製品の情報と融合させることで、ライフサイクルを横断した製品情報の管理を実現していきます。

 そして「活用する」については、Meister DegitalTwinに蓄積し融合させた製品の情報を精緻に分析して、PLMで管理する仕様や構造にフィードバック。それを比較し検証した結果を、次期製品の開発や個客対応の高度化につなげていくことを目指しています(図1)。

  • ※1 ERP:Enterprise Resource Planning

新しいものづくりに柔軟に対応する次世代PLM

 開発、設計、調達、生産、販売、保守サービスといった製品のライフサイクル全体の情報を活用する新しいものづくりには、異なるシステムとの連携や、さまざまなデータモデルへの対応、ビジネスでの活用シーンに適した機能などを柔軟に組み合わせ、拡張できるソリューションが求められます。そのため、従来の一般化されたパッケージモデルでは、カスタマイズが多くなり対応が困難です。一方、全てをスクラッチ開発していては、開発期間が長期化しやすく、速い変化に追従することは容易ではありません。

 Meister PLMはパッケージとスクラッチ、双方の利点を兼ね備えています。PLMに必要なデータモデル、機能部品、画面と、それらを組み合わせて構築するためのフレームワーク、そして販売、生産、サービスなどの周辺システムとの連携などにより、カスタマイズやアドオンに容易に対応します。業務を行う上で必要となるデータモデルや画面、機能部品を組み合わせ、お客さまの業務にジャストフィットしたシステムを短期間かつ最適なコストで構築できます。また機能やデータモデルごとにモジュール化された構造となっているため、システムの変更や拡張を柔軟に行うこともできます。

 PLMが本来実現するべき製品のライフサイクル全体の情報活用を強力に推進する。これがものづくり革命を支える次世代のPLMソリューションです。

戦略調達ソリューション『Meister SRM』

為替の変動や災害などのリスクをヘッジし、最適な調達を実現

 製造業ではこれまでも、原材料の調達から、製品の生産、出荷、販売に至る一連のサプライチェーンをきめ細かく管理し、需要予測に基づく生産計画や調達活動の最適化と、それによる品質維持とコスト削減を図ってきました。しかし、ものづくりのグローバル化が加速し、生産拠点や調達先の海外展開が進むにつれて、為替による原材料の価格や人件費の変動が、調達活動の最適化を阻む要因としてクローズアップされるようになりました。また、東日本大震災では、網の目のように広がるサプライチェーンの問題が浮き彫りになりました。1次調達先が被災を免れても、2次取引先以降が被災していたため部材の供給が途絶えてしまい、生産停止に追い込まれたケースが多数発生しました。調達ルートの全体像が見えない影響は、有事の際の大きなリスクになります。

図2 Meister SRM全体図

 こうした問題を背景に、製造業がサプライヤーとの関係を戦略的にマネジメントすることで、経済変動リスクや災害リスクにかかわらず、購買・調達活動を継続的に最適化するSRM(Supplier Relationship Management)に注目が集まるようになりました。また「Industrie 4.0」では、ドイツ政府がその実現に向けての最終段階を、企業や工場の枠を超えた国家レベルのサプライチェーン最適化であると捉えていることから、SRMはものづくりの次世代化を実現するための必須要件に挙げられるようになっています。

 調達部門を取り巻くこのような状況に対応するため、東芝では戦略調達ソリューション『Meister SRM』の機能強化を行いました。標準パッケージによりスムーズなシステム構築ができる上、電子見積りや取引先調査、BCP※2管理などの多彩な機能を連携させて、生産が停止するリスクを回避しながら、グローバルなレベルでの継続的な調達最適化が図れます(図2)。

  • ※2 BCP:Business Continuity Planning

各種機能とIoT※3の連携で、ダイナミックサプライチェーンを構築

 製造業では、サプライヤーの企業情報や決算情報、保有設備などの情報を、定期的に取引先調査で収集しています。これらの情報はサプライヤーの状況を把握する上で非常に有用ですが、ファイルサーバーや紙による保管・管理では、有効な活用が困難と考えられます。Meister SRMでは、インターネットを介して取引先調査を行なうほか、必要に応じてサプライヤー自らが更新することで、サプライヤーデータベースとして一元的な管理を行います。サプライヤー各社の技術力やキャパシティーなど、その能力を細かく見極めることで、最適な調達先の選定に活用できます。

 さらに、1次取引先以降のサプライチェーンを構成する企業の所在地の情報も管理することで、災害発生時に被災エリア内にある企業の特定と、それによる影響の調査が行なえます。調達先の地理的な集中によるリスクが低減できるほか、災害発生時にサプライヤーにもたらされる影響を迅速に把握し、代替材を早期に確保することなどによるBCPが可能になります。

 Meister SRMでは、この取引先調査やBCP機能に加えて、部材の詳細なコスト情報を柔軟なフォーマットで取得する電子見積機能や、非定型文書をサプライヤーとセキュアに交換する文書交換機能も提供しています。

 今後Meister SRMでは、調達活動をグローバルな規模で最適化するダイナミックサプライチェーンの構築をサポートし、次世代ものづくりへの対応を進めていきます。現行の機能で収集したサプライチェーンの情報を、各拠点の基幹システムやIoTで収集した生産に関する情報と連携させ、体系的に管理することで、製品を構成する個々の部材の供給ルートとサプライヤーのリアルタイムな生産状況の網羅的な見える化を図ります。これにより、為替変動や災害発生時に代替ルートをスムーズに設定してその影響を回避します。さらに、調達活動をフレキシブルに最適化することで、顧客ニーズの変化や想定外の需要の増減にも臨機応変に対応する生産体制を実現できます。

 新たな進化を続けるMeister SRM。ここから次世代ものづくりを支える戦略的な調達がはじまります。

  • ※3 IoT:Internet of Things

MESソリューション『Meister MES』

市場ニーズと生産現場を垂直につなぎ、生産活動を次世代化

 ものづくりの次世代化を実現するためには、製品のライフサイクルをつなぐ水平結合と、工場内の情報をERPなどの経営システムとつなぐ垂直結合が不可欠です。水平結合の実現に向けては、前述のとおりMeister PLMがサポートします。一方、垂直結合を実現し、製品ライフサイクルとの相互連携をサポートするのが、これから紹介するMESソリューション『Meister MES』です。

 MESはManufacturing Execution Systemの略で、一般的には製造指示と実績収集を図る製造実行システムを意味します。工場の生産計画を元に、作業者や装置に対して製造指示を行います。さらに製造実績のデータを元に工程の進捗管理を行うなど、ERPと現場の間に立ち、製造の実行を支援する重要な役割を担っています。

 新しいMeister MESは、以前より備えていたMESとしてのハイポテンシャルな機能をさらに進化させ、次世代ものづくりの実現に向けた画期的な機能を備えています。IoTネットワークに接続された工場内の制御システムと上位システムのシームレスな連携を目指し、また的確な作業指示と実績管理による工場の見える化を推進します。これにより、刻々と変化する生産現場の状況が、工場で働く人や製造装置と同期する「つながる工場」が実現します。

Industrie 4.0を見据え、汎用インターフェースや自動化機能を搭載。
セル生産機能も強化

 多品種で高付加価値の製品を必要な量だけ生産する次世代ものづくりに向けて、Meister MESが目指すのは、顧客の個別ニーズを的確に捉えてそれらを反映させた生産計画に基づき自律的に動く、スマートな生産プロセスの実現です。

 そこでまず重要となる製造現場の機器を接続するインターフェースには、Industrie 4.0で推奨されている通信規格「OPC UA(OPC Unified Architecture)」を日本でいち早く搭載。PLCなどの制御装置とセキュアなネットワークで接続することを可能としました。

 また自動化機能として、「ダイナミックディスパッチ機能」および「自動搬送インターフェース機能」の強化を行いました。ダイナミックディスパッチ機能としては、各工程で装置が処理待ち状態の場合に、どのロットを着工するかを判断し指示する着工ディスパッチ機能と、装置での加工完了時に次の工程への搬送を指示する搬送ディスパッチ機能があります。この搬送ディスパッチ機能と連携した自動搬送指示インターフェース機能により、自動搬送設備との連携も可能となりました。これらの機能で、生産設備・資源の有効活用や、工場全体のスループットの向上を図ることができます。

 さらに、多品種少量生産のものづくりをサポートする「セル生産対応機能」を強化。複数の生産工程を「セル」としてとらえ、それらを組み合わせて再構成し、各工程の作業者が指示された作業を容易に把握できるようにすることで、現場の負荷状況に応じた柔軟な生産ラインが実現できます。

図3 Meister MES

 2016年4月に提供を開始した、ものづくりBigData分析・活用ソリューション『Meister Analysis』との連携も大きなトピックです。Meister MESが取得した生産に関わるログデータや、IoTで取得した膨大なデータを相互に関連させながら、不具合や異常のパターンを高精度に分析。分析結果を製造指示や装置制御に即座にフィードバックすることで、不具合や故障を未然に防ぎ、歩留りの改善と生産性の向上を実現する、より高度な生産が可能になります(図3)。

 次世代ものづくりのためのソリューションとして生まれ変わったMeister シリーズは今後、さまざまなものづくりを支え続けてきたその力を全方位に進化させ、お客さまのものづくりの次世代化を全力でサポートしていくつもりです。

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