トラック・バス・タクシー事業の働き方改革に向け、政府が行動計画を発表!
「物流×働き方改革」は、今後、どう進んでいく?

更新日:2018年7月20日

平成30年5月30日、政府が、自動車運送事業の働き方改革に関する省庁連絡会議において「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画~『運び方改革』と安全・安心・安定(3A)の職業運転者の実現~(案)」と題した計画を策定した。
トラック・バス・タクシー事業者の意識を変え、必要な施策を速やかに行い、運輸業の働き方を変革しようという内容で、全部で88の施策が設定されている。
近年、ニュースや情報メディアで盛んに叫ばれている働き方改革、その自動車運送事業版とは、いったいどんなものなのか……。
また、働き方改革の流れのなかで国土交通省から公布された「睡眠不足に起因する事故の防止対策を強化します!!」という宣言の具体的な内容とは?
全貌やポイントを解説する。

3K労働から3A(安全・安心・安定)労働へ! 働き方のシフトチェンジを目指す

平成29年6月29日、政府によって「自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」が設置された。内閣官房副長官、国土交通副大臣のほか、警察庁交通局長、厚生労働省労働基準局長、環境省地球環境局長らで構成され、長時間労働を是正するための環境を整備することを目的として関連制度の見直しや行動計画の策定などを推し進めている。

連絡会議設置の約2か月後に当たる平成29年8月28日には「トラック・バス・タクシーの働き方改革『直ちに取り組む施策』(案)」という提言がとりまとめられた。自動車運送事業は長時間労働の状況にあるが、その一方で、荷待ち時間、宅配の再配達など、さまざまな効率化の余地が存在する。この"余地"を生かしてドラスティックに働き方を変革し、長時間労働を是正するため、ひとまず、「トラックのバース予約調整システムの導入促進」や「行政処分の強化」といった63の施策が打ち出されたのだ。

これを踏まえて平成30年5月30日に策定されたのが、「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画~『運び方改革』と安全・安心・安定(3A)の職業運転者の実現~(案)」と銘打たれた、より詳細な行動計画だ。「直ちに取り組む施策」に25施策を追加し、「労働生産性の向上」や「多様な人材の確保・育成」、「取引環境の適性化」に向けた取り組みを強化。いわゆる3K(きつい、汚い、危険)労働から脱却し、3A(安全・安心・安定)労働の実現を目指す動きを加速させている。

多様な人材を確保し、ホワイト経営を行うことが欠かせない

「自動車運送事業の働き方改革の実現に向けた政府行動計画」のなかで、特に注目したいのが、「働きやすい環境の整備」のための追加施策。「女性ドライバー等が運転しやすいトラックのあり方の検討」「女性トラックドライバー等に関する情報を発信」「人材の確保に向けた実態把握・魅力の発信」といった施策がプラスされ、女性を中心に多様な人材を確保しようというねらいがより色濃く見て取れるようになった。運転者不足が深刻化するなかで輸送能力を確保しながら長時間労働の是正を進めるためには、必要な数の運転者をしっかりと確保することが欠かせない。このため政府は、現状ではわずか2%程度にすぎない女性運転者の増加を図るとともに、若者の就業を促し、高齢になっても働き続けられる環境を整えなければならないと考えているという。

既に「多様な人材が働きやすい環境」を実現するために動き出している企業もある。運送業界大手のヤマト運輸だ。同社では、平成29年2月に「働き方改革室」を開設。再配達の受付時間を従来の20時から19時に繰り上げたり、全国のセンターに休憩室を整備したりと、積極的な取り組みを行っている。また、「働き方改革」をテーマにして社長と従業員が語り合うパネルディスカッションを開催し、意識改革を促す場づくりも実践。仕事と子育てを両立させながらキャリアアップを実現させる女性従業員も現れているそうだ。

政府は秋ごろまでに、荷主、元請事業者、トラック事業者を巻き込んだ「ホワイト物流実現運動」(仮称)の推進体制を立ち上げる構え。働きやすい環境を整え、残業時間を削減する「ホワイト経営」に取り組む事業者の認証制度を創設したり、行政処分を強化するなどして、物流業界全体の健全化を図ることを目指している。

平成30年度の「トラック事業における働き方改革の推進に向けた取り組み」に関する政府予算は1億100万円に増大した。前年度の4,300万円に比べると、実に倍以上である。こちらの予算は「自動車運送事業の働き方改革」全体の予算ではなく、あくまでその一部に関する予算であるが、金額の変化を見るだけで、国を挙げて取り組もうという"本気の姿勢"がわかるというもの。実現に向けて、まさに今、88の施策が推し進められている最中なのだ。この流れを理解し、活用しながら、高い意識を持って業務を改善していくことが、優秀な人材の確保や、ひいては業界の成長につながっていくことであろう。

過酷労働や睡眠不足による重大事故を撲滅する!

働き方に関するさまざまな動きがあるなか、平成30年4月20日に国土交通省から公布されたのが「睡眠不足に起因する事故の防止対策を強化します!!」という宣言だ。

近年、トラックやバスの居眠り運転による事故が、大きな社会問題になっている、平成28年3月に過酷労働による居眠り運転をしていたトラックが渋滞の列に突っ込み2人が死亡した。このトラックの運転手は、事故3日前~2日前にかけて一睡もせずに36時間乗務を続けていたことがわかっており、「常態化する過酷労働」「それによる重大事故」に、社会からも厳しい目が向けられている。

こうした状況を改善し、重大な事故を防ぎ、同時に働き方改革を推し進めるため、国土交通省が動き出したというわけだ。平成30年6月1日より「旅客自動車運送事業運輸規則及び貨物自動車運送事業輸送安全規則」の一部が改正され、

  • 事業者が乗務員を乗務させてはならない事由等として、睡眠不足を追加
  • 事業者が乗務員の乗務前等に行う点呼において、報告を求め、確認を行う事項として、睡眠不足により安全な運転をすることができないおそれの有無を追加
  • 運転者が遵守すべき事項として、睡眠不足により安全な運転をすることができない等のおそれがあるときは、その旨を事業者に申し出ることを追加

という3つの"追加"が行われている。

また、「旅客自動車運送事業運輸規則の解釈及び運用について」及び「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」が一部改正され、「点呼時の記録事項として、睡眠不足の状況を記載すること」が追加された。

これらの改正に先駆けて、平成28年にIoT機器を使った健康管理に取り組み始めたのが中日臨海バス株式会社だ。従業員が身に付けた活動量計や、血圧計、体温計、体重計などのデータをクラウド上に集積し、これによってひとり一人の状態を把握して、日々の体調管理に役立てている。年2回、実施しいる健康診断だけでは見えなかった日々の情報に触れることができ、継続して効果的な健康指導を行うことができるようになったという。ほかにも耳たぶに装着するタイプ、アイウェアタイプなど、さまざまなタイプの体調管理系IoTデバイスが開発されているので、検討してみてもよいのではないだろうか。

今後も、政府の行動計画をベースに、さまざまな法令や規則が改正される可能性がある。改正の見落とし、対応の遅れなどで勧告や処分を受けることがないよう、なにより、現場で働く従業員のために、こまめに法令をチェックし対応するよう心掛けたい。

ICTを活用した新たなタクシープラットフォームの開発など、先進事例も続々

ここでいくつか、政府の行動計画に則って行われている実際の取り組みを紹介しよう。

まずは行動計画の「働きやすい環境の整備」という項目のなかで取り上げられている「休憩施設における大型車駐車マス不足対応」について。NEXCO西日本が平成30年3月に「大型車については平日夜間を中心に70%以上のSA・PAで、小型車については休日昼間を中心に50%以上のSA・PAで駐車マスが不足しているという結果が出ており、慢性的に混雑している状況が確認されました」「このような状況に鑑み、SA・PA駐車場を確実に、快適にご利用いただくため、平成32年度末までに駐車マスの増設をはじめとする3つのサービス向上メニューに取り組むこととしましたので、お知らせいたします」と発表している。混雑が激しい60か所のSA・PAでゼブラ帯を縮小するなどの工夫をしながら大型車の駐車マスを増設する計画を立て、現在、着々と実行中だ。

また、平成30年5月には、ソニー、ソニーペイメントサービスと、グリーンキャブをはじめとするタクシー会社7社による新会社「みんなのタクシー」が設立された。ソニーがAI技術、ソニーペイメントが決済サービスを提供し、より多くの事業者が参加できるようなプラットフォームを開発する構え。行動計画のなかで取り組むべき施策として明記されているタクシーの「配車アプリ等を活用した新しいサービスの導入等の検討」の、ひとつの先進事例となりそうだ。

ほかにも、政府主導で「女性ドライバー等が運転しやすいトラックのあり方検討会」が開催されたり、大型第二種免許等の取得要件を緩和して免許を取る人を増やすための有識者会議が発足したりと、各所で活発な動きが広がっている。各種助成金制度も用意されているので、全日本トラック協会をはじめとする関連団体のWebサイトをこまめにチェックし、うまく活用しながら、業界全体の環境向上を目指したい。

最後に、みずほ総合研究所が発表した「働き方改革で残業代が減ると3%の賃上げが必要」だというリサーチ結果についても言及しておきたい。チーフエコノミストの高田創氏によると「働き方改革で残業時間規制が導入された場合、残業が削減される雇用者ひとり当たり年87万円の賃金が減少する」そうだ。運輸業の場合は5%以上の賃上げが必要という試算もなされている。企業側は働き方改革の先に賃上げがあることを意識して、より真剣に、「時間当たりの生産性を高めなければならない」、そう肝に銘じておく必要がありそうだ。

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ライタープロフィール

ライター:秋山 由香
編集プロダクション、出版社を経て独立。ライターとして、おもにIT系の企業インタビュー、教育系の情報誌、クリエイティブ系のWebメディアなどを担当している。女性の活躍やダイバーシティ、働き方改革にも明るい。

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