トラックドライバー問題から見る物流。
官民協働の動きや最新テクノロジーの活用に期待

更新日:2017年11月1日

慢性的な人手不足やEC市場の拡大に伴う荷物量の増加など、トラックドライバーを取り巻くさまざまな問題は、物流業界だけでなく日本経済にも深刻な影響を及ぼすため、早急な解決が求められている。とはいえ、これらの問題は荷主と運送業者だけで解決するのは難しく、官民が一体となって労働環境の改善や業務の効率化に取り組むことが必要とされている。

そこで今回は、国土交通省をはじめとする政府や物流業界が、ドライバー支援や輸送業務の改善のためにどのような施策を打ち出しているのかを紹介。あわせて、最新テクノロジーの活用がトラックドライバーをめぐる問題にどう貢献するのか、事例を取り上げながら考察したい。

人手不足や荷待ち時間の問題が慢性化

社会の変化に伴いさまざまな問題に直面している物流業界。なかでも、トラックドライバー不足については、解消に向けて明るい兆しがなかなか見えてこない。

国土交通省が2017年2月16日に公表した資料「物流を取り巻く現状について」では、「トラックドライバーは、全産業平均以上のペースで高齢化が進んでおり、高齢層の退職等を契機として今後更に労働力不足が深刻化する恐れがある」と指摘。
2015年現在、大型トラックドライバーの平均年齢は47.3歳、普通+小型トラックドライバーは43.8歳となっている。年齢構成を見ても、2001年と比べて29歳以下の比率が急激に低下。その背景には、賃金や労働時間の問題も大きく、同資料では、「トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者で約1割低く、中小型トラック運転者で約2割低い」「トラックドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して、大型トラック運転者・中小型トラック運転者とも約2割長い」というデータが示されている。

また、EC市場の拡大などで入出荷の多頻度小口化が進んだこともあり、営業用トラックの積載効率は減少傾向で、2015年度は、半分にも満たない40.5%となっているほか、「1運行あたりの荷待ち時間が2時間を超える運行が、荷待ち時間がある運行の3割弱を占めている。中には荷待ち時間が6時間を超え、トラック運転者の労働時間を大幅に延ばしているケースもある」と報告され、作業効率の悪さが露呈されている。その一方で年々、輸送の即時性が重視されるようになり、再配達問題なども絡んでトラックドライバーの労働環境は厳しさを増している。

物流危機を乗り越えるべく、政府はさまざまな対策方針を公表

このような事態に対して政府は、さまざまな角度から問題解決に取り組んでいる。国土交通省と厚生労働省は、2015年5月28日に「トラックドライバーの人材確保・育成に向けて」を公表。「魅力ある職場づくり」と「人材確保・育成」の2つを柱に、取引環境・長時間労働・賃金などの労働条件の改善を図るとともに、トラックドライバー確保・定着のために活用できる助成金を支給するなどの対応策を示した。

政府はさらに、社会状況の変化や新たな課題に対応できる「強い物流」を構築するため、2017年7月28日に「総合物流施策大綱(2017年度~2020年度)」を閣議決定。物流の生産向上に向けて、「サプライチェーン全体の効率化」「物流の透明化・効率化とそれを通じた働き方改革の実現」といった取り組みを、「IoTやビッグデータ、AIなど新技術の活用」や「人材の確保・育成・物流への理解を深めるための国民への啓発活動」などをベースに推進していくことを宣言した。

トラックドライバーの業務改善については、荷主、物流事業者など事業者間の連携・協働や共同物流によって効率的に輸送すること、荷待ち時間の短縮、女性や若者をはじめ、誰もが活躍できる労働環境の整備などが盛り込まれている。

効率的な輸送実現のための規制緩和や法整備の動きが加速

では、このような方針のもと、具体的にどのような取り組みが実施されているのだろうか。近年の事例をいくつか紹介しよう。

まず、国土交通省は旅客運送と貨物運送の事業の掛け持ちが行える「貨客混載」の対象範囲を、2017年9月1日の通達施行のタイミングに合わせて拡充した。これまで自動車運送において、乗合バスで350㎏未満に制限されていた荷物の重量を350㎏以上でも可能に変更(ただし、一般貨物自動車運送事業の許可を受けた場合に限る)。また、乗合バスに限られていた貨物運送を、過疎地域限定でタクシーや貸切バスにも範囲を広げるとともに、貨物用トラックに旅客を乗せることも認めた。

異なる輸送機関の協働による問題解決として、船舶や鉄道とタッグを組んだ事例も紹介したい。政府は2016年10月1日に「物流総合効率化法」を改正。モーダルシフトに係る計画が認定可能となり、2017年9月26日、国土交通省と経済産業省は共同で、阪九フェリー、住友理工などによる自動車用ホース輸送の船舶モーダルシフトや、東洋製罐、東洋メビウスなどによる缶容器製造用部材輸送の鉄道モーダルシフトなど5件を初めて認定した。これらのモーダルシフトにより、いずれも500~1,200km程度のトラック輸送距離を100km程度に短縮できることから、ドライバーの負担軽減に寄与すると予測されている。この事例を皮切りに、今後も船舶や鉄道と連携した物流効率化の取り組みが活発化することに期待したい。

一方、自動運転の実現に向けた取り組みも見逃せない。政府のIT戦略本部は、2017年2月10日、「第2回道路交通ワーキングチーム」を開催し、ITS・自動運転を巡る最近の動向、完全自動運転実現へのシナリオと制度的課題、自動運転の公道実証に係るデータの共有などの進め方などについて検討。これまで国家戦略特区において自動走行の実証が行われてきたが、国主導による公道実証実験が今後、本格化される見通しだ。後続車無人の隊列走行やラストマイル自動走行の社会実装に向けた実証を目指し、必要な技術開発、社会受容性や事業面の検討などを行っていく。

運送会社の安全性を高める「Gマーク」や、
ドライバーの地位向上を掲げた運動に注目

運送会社を支援するための取り組みとして、近年話題になっているのが、全日本トラック協会が実施している「貨物自動車運送事業安全性評価事業(Gマーク制度)」、通称「Gマーク」だ。一般貨物自動車運送事業の認可を受けた事業者のうち、特に輸送の安全に取り組んだ事業者を評価して認定していく事業で、Gマークを取得した事業者名を公表している。運送業全体の安全性向上に対する意識を高めるのが目的だが、荷主の中にはGマークの取得を契約の必須条件にするところも増えてきており、同業他社との差別化を図れるメリットも大きい。

さらに、国土交通省では2014年度より、連続して10年以上Gマーク認定を取得している事業所等に「安全性優良事業所(Gマーク)表彰」を実施しているほか、Gマークを取得することでさまざまなインセンティブが付与されることも大きな特徴。たとえば運送保険の保険料が割引になったり、CNG(圧縮天然ガス)を燃料としたトラックなど低公害車導入の際の補助要件が緩和されたり、助成の優遇措置が受けられたりと、運送会社にとってプラスになることが多い。平成28年12月15日現在、Gマークが認定された安全性優良事業所は、事業所全体の27.8%にあたる、23,414事業所。2017年度も6,799事業所の申請を受理しており、安全への取り組みを見える化した「Gマーク」取得への需要は、ますます高まっていくだろう。

なお、全日本トラック協会は2017年10月1日~11月30日までの間、東名高速道路の海老名サービスエリア・上りにおいて、GマークをPRするキャンペーンを実施中。エスカレータへのラッピングやフードコート内のテーブルにPRステッカーを貼付することで、一般の人びとに広く周知することを目指している。

ほかにも、物流の最前線で働くトラックドライバーの地位向上や、若者に運送業の魅力を感じてもらうことを目的に、一般社団法人ドライバーニューディールアソシエーションは、2012年より「トラックドライバー甲子園」を開催。参加企業が自社の取り組みをプレゼン形式で発表するほか、同業者の模範となるドライバーを表彰。ドライバー自身が誇りを持って働く意義を築くことで、業界のステータスを高めようと試みている。

課題解決に大きな期待がかかる、最新テクノロジーの導入

このような国や業界の取り組みに加え、民間でも物流の効率化をめざす動きが進んでいる。特に、あらゆるビジネスシーンへの導入が活発なAIやIoTなどの最新テクノロジーは、物流業界においてもインパクトを与えつつある。

たとえば、物流オペレーション事業やロボティクス支援事業などを展開しているPALは、AI TOKYO LAB、北海道大学大学院の川村秀憲教授(Sapporo AI Lab ラボ長)と産学連携プロジェクトを実施。共同研究で、AIを活用した物量予測とスタッフシフトの自動生成システムを開発した。従来、物流センターにおける物量予測やスタッフシフトの調整は、センター長の経験や勘に頼ることが多く、予測と実態の乖離が生じていた。そこで、過去の物量実績や労働実績、天気やトレンドなどをAIに学習させて、日々変化する物量を正確に予測し、その物量に最適なスタッフシフトを自動調整。倉庫内業務の効率化や品質の安定化を目指す。物流センター自体のパフォーマンスが向上すれば、トラックの積載率アップや荷待ち時間の短縮などにもつながるだろう。そういう意味では、倉庫内業務のあらゆる情報を見える化する倉庫管理システム(WMS)の構築も、トラックドライバーをめぐる課題を解決する手段のひとつとして、大きな可能性を秘めていると言える。

最新テクノロジーを活用したソリューションとしてもう一つ例を挙げると、IoTとビッグデータを使った運送会社向けの統合管理システム「ムーボ(MOVO)」を提供しているHacobuが、荷主と運送会社をつなぐ配送マッチングサービスを2016年12月12日にスタート。荷物の発着地点、トラックの大きさなどをウェブページから入力し、見積もり、注文などをオンライン上でのやり取りで簡単に完結させることが可能で、運送会社はトラックを効率よく稼働させることができる。今後も運送品質を高めながら、業界の効率化・活性化に貢献していくつもりだ。

少子高齢化が進む日本においてドライバーの劇的な増加がなかなか見込めない中、官民が知恵を持ち寄り、さまざまな角度からトラックドライバーをめぐる課題解決を図ろうとしている。社会的な関心も高く、国を挙げて改革に取り組む今こそがビジネスチャンスの時であり、大きなイノベーションが起きることに期待したい。